障害年金は「がん」になったときでも受取れる?
執筆者:ファイナンシャルプランナー(CFP)|高山 一恵
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【この記事を読んでわかること】
- 障害年金は病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受取れる年金
- がんであっても「初診日に国民年金や厚生年金に加入している」「保険料を納めている」「障害認定日に障害が所定の状態」の条件を満たせば障害年金は受取れる
- がんで障害年金を受取っている人は多くないのが現状
公的年金の給付の種類には「老齢年金」「障害年金」「遺族年金」の3つがあります。このうち障害年金は、文字どおり「障害を負ったら受取れる」となんとなく思っている方もいるでしょう。では実際、障害年金はどんなとき、いくら受取れるのでしょうか。また、多くの方がかかる可能性がある「がん」になったときでも受取れるのでしょうか。障害年金のしくみと受給条件を紹介します。
障害年金とはどんな年金?
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受取れる年金です。障害年金には、自営業・フリーランス・学生・主婦(夫)といった国民年金の加入者が受給できる「障害基礎年金」と、会社員・公務員といった厚生年金の加入者が受給できる「障害厚生年金」があります。
年金というと、高齢者になってから受給する「老齢年金」(老齢基礎年金・老齢厚生年金)をイメージされる方が多いでしょう。しかし、障害年金の受給者は高齢者とは限りません。障害年金は現役世代でも条件を満たせば受給できます。
障害年金を受給するための条件は?
障害年金を受取るには、次の3つの条件をすべて満たして、「障害の状態」にあると認定を受ける必要があります。
障害年金の受給要件①:障害の原因となった病気やけがの初診日に国民年金または厚生年金に加入していること
初診日とは、障害の原因となった病気やけがではじめて医師の診察を受けた日のことです。たとえば、「腹痛だと思って病院にかかったもののなかなか回復しなかったので、精密検査を受けたら大腸がんだった」という場合、初診日は「腹痛だと思ってはじめて病院にかかった日」です。この初診日に国民年金に加入している場合は障害基礎年金を、厚生年金に加入している場合は障害厚生年金を受取れる可能性があります。なお、会社員や公務員は厚生年金に加入することで国民年金に加入しているので、障害基礎年金に上乗せして障害厚生年金が支給される可能性があります。
障害年金の受給要件②:初診日の前日において保険料の納付要件を満たしていること
国民年金も厚生年金も、加入して保険料を支払っています。もしも保険料を支払っていなければ、障害年金はもらえなくなってしまいます。具体的には、初診日の前日において初診日がある月の2カ月前までの、
①加入期間のうち、3分の2以上の期間が納付又は免除されていること
②直近1年間に保険料の未納期間がないこと(※初診日が2026年4月1日以前にあることが条件)
を満たす必要があります。
年金保険料が未納になる可能性があるのは、自営業・フリーランス・学生といった方(国民年金の第1号被保険者)です。仮にいくらか年金保険料を払っていたとしても、上の条件を満たしていないと、障害年金(障害基礎年金)は受取れません。
障害年金の受給要件③:障害の状態が、障害認定日に障害等級表の1〜2級(障害基礎年金)・1〜3級(障害厚生年金)に該当していること
障害年金は、障害の程度(等級)に応じて受取れます。障害の程度は、
1級…他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできないほどの障害の状態
2級…必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができない状態
3級…日常生活にはほとんど支障はないが、労働については制限がある状態
が該当します。そして、具体的にどのような状態が1級・2級・3級に該当するのかが、障害等級表に細かくまとめられています。なお、障害者手帳にも障害等級はありますが、障害者手帳の障害等級と障害年金の障害等級は全く異なります。
障害認定日とは、基本的に初診日から1年6カ月を過ぎた日のことを言います。1年6カ月前に病気やケガが治った場合はその日を指します。「障害認定日」に障害の程度が1級〜3級に該当する場合に、障害基礎年金・障害厚生年金が受給できます。
障害年金はいくらもらえる?
障害年金の金額は、次のようになっています。
<障害年金の金額>
日本年金機構「障害年金ガイド(令和6年度版) 」より
障害基礎年金は2級まで、障害厚生年金は3級までが支給の対象です。また障害厚生年金に該当するよりも軽い障害が残ったときは障害手当金(一時金)が受取れます。障害基礎年金より、障害厚生年金のほうが手厚くなっています。
障害基礎年金の金額は2級が老齢基礎年金の金額と同じです。そのため、年によって金額が変わります。2024年度の場合、2級は81万6,000円、1級は2級の1.25倍で102万円です。
障害厚生年金の金額は、働いているときの給与(厳密には「平均標準報酬額」)や厚生年金の加入期間によって変わります。基本的に、給与が高くて長く勤めている人ほど金額が増えます。厚生年金保険に加入していた期間が300カ月(25年)に満たない場合、300カ月とみなして計算されます。障害基礎年金と同じく、1級は2級の1.25倍、3級と障害手当金には最低保証額が定められています。
また、1級と2級に該当する方に対象の配偶者や子どもがいる場合には、加給年金や子の加算も受取れます。
なお、障害年金は老齢年金とは違い、非課税です。
がんでも障害年金を受取れる?
ここまで紹介してきたように、障害年金は、
- 初診日に国民年金や厚生年金に加入している
- 保険料を納めている
- 障害認定日に障害が所定の状態
の3つの要件を元に支給されるか、支給されないかが決まります。「がんになったから障害年金を受取れる(受取れない)」と、病名で決まるわけではありません。つまり、がんになって所定の障害の状態になり、3つの要件をすべて満たした場合は、がんでも障害年金を受取れます。
日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準」では、がんによる障害の程度を5つに区分しています。
<がんによる障害の程度>
日本年金機構「国民年金・厚生年金保険 障害認定基準 」より
そして、
1級…オに該当
2級…エまたはウに該当
3級…ウまたはイに該当
という例が挙げられています。
ただ、実際のところがんによる障害で障害年金を受給している人はそれほど多くないようです。日本年金機構「障害年金業務統計(2022年度決定分)」によると、新規裁定(新たに障害基礎年金・障害厚生年金を受給しはじめた件数)12万2,629件のうち、がんによる障害年金の受給者が該当する「血液・造血器・その他」は4,132件、わずか3.4%となっています。「血液・造血器・その他」には、がんでない病気も含まれているので、がんで障害年金を受給している件数・割合はもっと少ないものと考えられます。
障害年金を受取れるかどうかは、「初診日に国民年金や厚生年金に加入しているか」「保険料を納めているか」「障害認定日に障害が所定の状態か」の3つの要件で決まることを紹介しました。がんであっても、この3つの要件を満たしていれば障害年金が受給できます。ただ、その判定や手続きは難しいので、障害年金が専門の社会保険労務士(社労士)などに相談してみることをおすすめします。
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