親を扶養に入れるといくら節税できる?扶養の条件や手続きをお金のプロが解説
執筆者:株式会社ブリエ 代表取締役 池田幸代 本気の家計プロ®
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- 節約術
物価が上がって暮らしにくいと感じることが多くなりました。特に高齢期は現役世代と違い、収入も限られてきます。しかし、同じ収入であっても活用できる制度があれば、手残りに違いが出てきます。誰もが使えるわけではありませんが、利用できる条件を満たすのならば、負担を減らすことができます。
今回は、親の「扶養」に着目して、節税や社会保険料の負担減ができる条件を確認していきましょう。
親や祖父母を扶養に入れるメリット
親や祖父母を扶養に入れることのメリットは、2つあります。
1つ目は、親や祖父母を扶養に入れることで税金の扶養控除を使うことができ、納める所得税と住民税を減らせるということです。年齢などで控除できる金額は違います。たとえば70歳以上「同居」の親族であれば控除額は、所得税で58万円、住民税で45万円です。収入が高額な人ほど節税効果は大きくなります。
区分 | 所得税 | 住民税 | |
---|---|---|---|
一般の控除対象扶養親族 | 38万円 | 33万円 | |
老人扶養親族 (70歳以上) |
同居老親等以外の者 | 48万円 | 38万円 |
同居老親等 | 58万円 | 45万円 |
※筆者作成
2つ目は、75歳未満の親や祖父母が子ども等の加入する健康保険の扶養に入ることで、国民健康保険料を払う必要がなくなるというものです。
国民健康保険料は、収入金額と家族の人数で決まりますが、会社員等が加入する健康保険では家族の人数が増えても、保険料が上がることはありません。ただし、75歳以上になると後期高齢者医療保険に移行することになるので、扶養に入ることはできません。
つまり、支える側は節税ができ、支えられる側は健康保険料を納める必要がなくなるので、生活資金にゆとりが出てくることになります。もちろん、税金と健康保険は別々の制度なので、税金の扶養控除だけを使うこともできます。使える制度があるのに、知らないために取りこぼしてしまうのはもったいないですね。
扶養に入れる条件とは
扶養に入れる条件は、税法上の扶養と健康保険上の扶養では異なります。条件を満たせば、両方とも扶養に入ることができます。
税法上の扶養の加入条件
まず税法上の扶養ですが、「生計を一にする親族で、所得金額が一定以下の者」が扶養親族になります。戸籍上の親族であることが必要ですが、必ずしも同居が要件になっていません。
仕事の関係で別居していたり、介護施設に入所していたりしても構いません。
収入のところでは、所得ベースで判定します。たとえば親が年金を受給しているときには、公的年金等控除を差し引いた金額になります。年金収入のみなら65歳未満で108万円以下、65歳以上で158万円以下であることが条件です。また、親が青色申告者の専従者として1年を通じて一度も給与の支払いを受けていないことや白色申告者の事業専従者でないことも条件になります。
条件 | 税法 |
---|---|
生活 | 生計を一にしている親族 |
年齢 | 上限なし |
収入の範囲 | 所得 非課税のものは含まない |
年収 | 親の所得金額が48万円以下 年金収入の場合は 65歳未満→108万円以下 65歳以上→158万円以下 |
※筆者作成
健康保険上の扶養の加入条件
健康保険上の扶養は、「主として被保険者により生計を維持している者」となっており、税法とは違いがあります。親族や家族の範囲は、配偶者および被保険者の3親等内の親族となっていて、内縁の配偶者とその両親、子どもも加入できます。続柄によっては、同居が要件になる場合もあります。また、年齢が75歳未満である必要があります。
収入に関しては、所得ではなく収入ベースで判断します。ここでの収入は課税・非課税を問わず収入として計算されますので、傷病手当金や失業給付なども収入になります。また、健康保険上の被扶養者の判断は、税金や社会保険料を差し引く前の金額なので、判定する収入が税法と健康保険で違いがあることに注意しましょう。さらに職場の健康保険組合によっては、被扶養者の範囲や条件が異なる場合もあるので、事前に確認しておきましょう。
条件 | 健康保険 |
---|---|
生活 | 主として被保険者により生計を維持されている者 |
年齢 | 75歳未満 |
収入の範囲 | 収入 収入は課税・非課税を問わない |
年収 | 60歳未満→130万円未満 60歳以上→180万円未満 同居:子の収入全額の半分未満であること 別居:子からの仕送り金額より少ないこと |
※筆者作成
扶養に入れることのデメリット
扶養に入ることはメリットばかりではなく、デメリットもあります。
たとえば健康保険の高額療養費の自己負担限度額は、所得金額によって分けられています。扶養に入ると扶養者である子どもの収入が基準になるので、負担が大きくなります。特に高齢期に突入すると、医療や介護のお世話になる機会が増えてきます。持病があって通院が多い場合や入院が頻繁に予想される場合には、かえって負担が重くなる場合もあります。保険料負担のことだけではなく、医療費負担も考慮に入れて考えておく必要があります。
また同居・別居に関わらず、親への金銭面の援助は一度始めるとやめにくい面があります。節税や保険料の節約ができるからと安易に考えず、生涯支援が続けられるのかも考えておくべきでしょう。
扶養に入れる場合の手続き
税金の扶養控除は、年末調整・確定申告で申請します。扶養する側の人が確定申告をしないでよい場合には、年末調整で「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の「控除対象扶養親族」に記入して提出します。また、自営業や一部の会社員などは、確定申告書の「配偶者や親族に関する事項」欄に記入します。
会社員や公務員など(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を扶養に入れる場合には、事業主を経由して「被扶養者(異動)届」を日本年金機構に提出することになっています。手続きには必要になる書面の添付が必須になります。詳しいことは勤務先の担当部署に確認しましょう。
一部の場合を除けば、親を扶養に入れることで負担が減るケースが多くなります。税金と健康保険に分けてメリット・デメリットを考慮に入れて利用を検討しましょう。
まとめ
- 親や祖父母を扶養に入れることによって、所得控除で節税でき、国民健康保険料の負担を減らせるケースがある。
- 税法の扶養の加入条件と健康保険の扶養の加入条件は違う。
- 高額療養費の自己負担が高くなるなどのデメリットもあるため、トータルに考える必要がある。
- 扶養に入る手続きは、税法では年末調整・確定申告で行い、健康保険では勤務先の担当部署が窓口になる。
- ※ 本ページは2023年3月時点での情報であり、その正確性、完全性、最新性等内容を保証するものではありません。また、今後予告なしに変更されることがあります。