NISA利用者が認知症になったらどうなる?口座凍結されたらどうしたらいい?

執筆者:マネーコンサルタント

頼藤 太希

NISA

2025年6月6日

【この記事を読んでわかること】

  • NISA利用者が認知症になったことを金融機関が把握したときには、NISA口座が凍結され、NISA利用者本人もその家族も資産を売買したり引出したりできなくなる
  • 法定後見制度を利用すればNISA口座の資産を引出せるが、時間や費用がかかり、途中でやめられないなどのデメリットもある
  • マネックス証券「たくす株」を利用すると、口座凍結することなく資産(株式)を引出すことが可能。NISA以外の場合も、イオン銀行「代理人手続きの届出」であらかじめ代理人を立てておけば認知症になった人の資産を代理人が管理できる

口座凍結と聞くと、「亡くなった方」の「銀行口座」が使えなくなってしまうというイメージをお持ちの方が多いと思いますが、口座凍結は「認知症になった方」の「NISA口座」でも起こることをご存知でしょうか。NISA口座が凍結されると、これまで築いてきた資産を自由に使えなくなってしまいます。
今回は、NISA利用者が認知症になったときのNISA口座の凍結と、口座凍結に備えた対策を紹介します。

認知症になるとNISA口座が凍結される

NISAは投資で得られた利益にかかる税金をゼロにできる制度です。2024年からは制度が大きく改正されて使いやすくなったことから、「新NISA」と呼ばれて話題になりました。金融庁が2025年2月に発表した「NISA口座の利用状況調査(2024年12月末時点(速報値))」によると、2024年12月末時点の新NISA口座の数は2,560万4,058口座となっており、すでに多くの方がNISAを利用していることがわかります。

≫関連コラム
【みんなの平均】新NISAいくら積み立てている?

新NISAの制度は非課税保有期間が無期限とされ、利用者は一生涯にわたって非課税で投資ができるようになりました。おトクな制度ですから、今後数十年など、長くNISAと付き合っていく方も多いでしょう。そうなると「NISA利用者が認知症になる」ということも起こり得ます。

冒頭で触れたとおり、NISA口座も利用者が認知症になった場合に凍結される可能性があります。認知症になると判断能力が低下するため、NISA口座でどのような取引をするのかを理解できないまま契約してしまう可能性があるからです。詐欺の被害に遭う可能性もあるでしょう。それらを防ぐために、金融機関は認知症になったNISA利用者の口座を凍結するのです。

政府広報オンラインの記事によると、2022年度時点で65歳以上の認知症の方の割合は約12%、認知症予備軍の軽度認知障害の方の割合は約16%とのことです。認知症は誰もがなり得ると考えられているそうです。高齢化が進むとともに、今後も認知症の方は増えていくでしょう。

NISA口座が凍結されるのはいつ?

NISA利用者のNISA口座が凍結されるタイミングはいくつかあります。

①NISA利用者が認知症になったことを家族が金融機関に伝えたとき

まずは認知症になったNISA利用者の資産を使いたいというタイミングです。たとえば介護費用や入院費用などをNISA利用者本人に代わって引出したいということもあるでしょう。家族が金融機関に「NISA利用者の代わりにお金を引出したい」と相談したとします。このとき、金融機関はNISA利用者が認知症になったことを知り、口座凍結を行う場合があります。

②NISA利用者の判断力が低下していると金融機関が判断したとき

たとえば、「金融機関の窓口で通帳・キャッシュカード・印鑑などを何度もなくす」「何度も同じ内容を確認したり、同じ手続きをしたりする」などの行動があると、金融機関がNISA利用者の判断能力が低下していると判断し、口座凍結を行う場合があります。

③不審な取引が発覚したとき

これまで大きな取引がなかったのに、突然多額の取引があったり、多額の出金があったりすると、詐欺の可能性を疑われることがあります。このとき、本当に本人による取引や出金であることがわかれば問題ないのですが、そうではないときは口座凍結が行われる場合があります。

口座凍結された場合資産はどうなる?

NISA口座が凍結されると、NISA利用者本人はもちろん、その家族であっても、NISA口座にある資産を引出せなくなります。また、株や投資信託の売買もできなくなってしまいます。

認知症になったNISA利用者の口座から口座凍結後にお金を引出す方法に「法定後見制度」があります。法定後見制度とは、認知症などで判断能力が低下し、ひとりで決めることに不安や心配のある方が契約や手続きをするときにサポートしてくれる制度です。家庭裁判所が選任した「成年後見人」が資産を管理して、必要なお金を引出してくれます。ただし、法定後見制度には注意点もあります。

①申し立てに時間がかかる

法定後見制度の申し立てから実際に支払いが行われるまでには、数カ月の時間がかかります。その間、NISA利用者の口座は凍結されており、お金を使うことができません。

②途中でやめることができない

法定後見制度は原則、途中でやめることができません。途中でやめてしまうと、本人(ここでは、NISA利用者)の今後の生活が成り立たなくなる恐れがあるからです。医者の診断書で認知症の回復が認められ、家庭裁判所で取消しが認められるとやめることができますが、その可能性は高くないのが現実でしょう。

③成年後見人は家族以外になることが多い

成年後見人は家庭裁判所が決めるため、家族が選ばれるとは限りません。最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」(令和6年1月〜12月)によると、成年後見人に親族が選ばれる割合は17.1%と、意外と少ないのが現状です。8割以上は司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門家が成年後見人になっています。専門家が成年後見人になると、本人が亡くなるまで毎月数万円程度の報酬を支払い続ける必要があります。

法定後見制度を利用すればNISA口座の資産を使えるのですが、相応にデメリットもあることがわかります。

口座凍結に備えて事前にできる対策は?

認知症は誰でもなる可能性がある以上、NISA利用者の口座凍結は今後も増えると考えられます。口座凍結を防ぐ対策にはいくつかあります。

事前に引出しておく

万一の場合に備えて、早めにNISA口座の資産を引出しておくと安心です。入院・介護費用などの支払いが発生した場合も、ここから支払うことができます。ただし口座凍結されていなくても、NISA利用者が亡くなったあとの資産は「相続財産」ですので、勝手な無駄遣いは禁物です。

家族信託を利用する

家族信託は、財産の管理・処分の権限だけを切り離して家族に与えられる仕組みです。あらかじめ家族信託を設定すれば、NISA利用者が認知症になったり亡くなったりしても受託者(権限を与えられた方)が元気な間は口座は凍結されません。家族信託であれば、家族間での契約なので、外部の成年後見人にかかる報酬もかかりません。

ただし、家族信託の手続きは非常に複雑です。個人で手続きをしようとすると大変ですし、トラブルのもととなりますので、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
マネックスSP信託のサービス「つむぎ」では、ベーシックな家族信託のプランの中から必要な仕組みや契約を選ぶだけで、手間をかけずに家族信託の契約を用意できます。

「たくす株」を利用する

マネックス証券の「たくす株」は、株式投資をしている方向けに、認知症になったときの財産管理と、相続時のスムーズな資産承継をサポートしてくれるサービスです。利用すると、NISA利用者が認知症になったときに代理人が株式などの売買取引をすることが可能で、口座も凍結されません。また、代理人は生活資金としてたくす株専用口座のお金を月50万円まで出金できるので、当面の生活費で困ることは少ないでしょう。
将来相続が発生したときにも、面倒な相続手続きは不要です。戸籍謄本などを提出するだけで財産が受取れます。

代理人手続きの届出

イオン銀行では、指定した家族などの代理人が口座利用者に代わって取引できる「代理人手続きの届出」が可能です。あらかじめ「代理人(予約型)」として代理人を届け出ておけば、認知症になった口座利用者に代わって「普通預金の入出金」「定期預金・積立式定期預金の取引」「ローンの返済や解約」「外貨預金やiDeCo(個人型確定拠出年金)の解約」といった手続きをすることが可能です。NISA取引の場合は個別対応となりますが、簡単な手続きで口座凍結リスクに備えることができます。NISA以外の口座は、代理人を届け出ておくのがよいでしょう。

NISA利用者が認知症になり、口座が凍結されてしまう可能性は誰にでもあります。口座凍結されてから「困った」とならないように、事前にできる対策をとっておきましょう。

  • 本ページは2025年4月時点での情報であり、その正確性、完全性、最新性等内容を保証するものではありません。また、今後予告なしに変更されることがあります。

お申込みに際しては、以下のご留意点を必ずご確認ください。

オススメ

頼藤 太希

マネーコンサルタント

(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に創業し現職。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、TBS「情報7daysニュースキャスター」などテレビ・ラジオ出演多数。主な著書に『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)など、著書累計180万部。YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。日本年金学会会員。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki

頼藤 太希のプロフィールを見る