ホーム>暮らす>年金受給者は確定申告が不要?確定申告で得する可能性がある6つのケース

年金受給者は確定申告が不要?確定申告で得する可能性がある6つのケース

【この記事を読んでわかること】

  • 年金受給者には確定申告不要制度があるが、条件を満たせば確定申告をすることで所得税や住民税が安くなることがある
  • 「年の途中まで働き、年末調整を受けずに辞めた場合」「「扶養親族等申告書」を提出し忘れた場合」「生命保険料控除・地震保険料控除が受けられる場合」「医療費控除・セルフメディケーション税制が利用できる場合」「ふるさと納税をした場合」「損益通算・繰越控除ができる場合」は税金が安くできないかチェックしよう
  • これまで確定申告していなかった場合でも、過去5年分なら「還付申告」をすることで税金が安くできる

毎年2月16日から3月15日といえば、1年間の所得から税金の金額を計算して納税する確定申告の時期です。年金受給者の場合、「確定申告不要制度」も用意されていますが、確定申告をすることで税金の還付が受けられる可能性もあるのです。
今回は、年金受給者が確定申告で得する6つの事例を紹介します。

年金受給者でも所得税・住民税の支払いがある

公的年金が一定金額を超えると税金の対象です。年金は「雑所得」として、所得税や住民税の課税対象となります。
本来、雑所得が一定額以上あるなら、確定申告をしなければなりません。しかし、確定申告の手続きは負担がかかります。そこで、年金受給者の場合、条件を満たしているならば、確定申告をしなくてよいことになっています。これが確定申告不要制度です。

確定申告不要制度の対象者は、次のとおりです。

確定申告不要制度の対象者

公的年金等の収入金額(2か所ある場合は合計額)が400万以下→いいえ→確定申告が必要/→はい→公的年金等に係る雑所得以外の所得合計額が20万円以下→いいえ→確定申告が必要/→はい→確定申告は不要

出典:政府広報オンライン

上のフローチャートのとおり、
①公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下
②公的年金等にかかる雑所得以外の所得金額が20万円以下
であれば、確定申告をする必要はありません。収入が年金のみで、400万円を超える人はそう多くありません。

しかし、確定申告不要制度の対象者だからといって確定申告しなくていいものだと決めつけるのは違います。なぜなら、毎年納めている税金額が納めすぎになっている場合があるからです。

これを防ぐには確定申告が必要。年金受給者も、確定申告することで正しい税額に調整できるため、税金が減らせる(所得税が還付され、翌年の住民税が安くなる)というわけです。

年金受給者が確定申告で得する6つのケース

次の6つのケースに当てはまる年金受給者の方は、確定申告することでお得になりますので、ぜひ確定申告しましょう。

①年の途中まで働き、年末調整を受けずに辞めた場合

定年退職したあとに再雇用されたり、同年内に再就職したりして、12月末まで勤めた場合は、勤務先が年末調整をしてくれます。しかし、年の途中で退職すると、年末調整が受けられません。そのため、ほとんどの場合所得税を納めすぎになっています。確定申告をすることで正しい税額が計算され、税金を安くできます。

②「扶養親族等申告書」を提出し忘れた場合

年金受給者が配偶者控除や扶養控除を受けるには、毎年9月ごろに郵送で届く「扶養親族等申告書」の提出が必要です。しかし、扶養親族等申告書を提出し忘れると、配偶者控除や扶養控除の適用のないまま税金が計算されてしまいます。もしも提出を忘れていたら、確定申告をすることで税金を安くできます。
また、配偶者や扶養親族がいなくても、ご自身が障がい者・寡婦・ひとり親に該当する場合は、扶養親族等申告書を提出することで該当の所得控除が受けられます。

③生命保険料控除・地震保険料控除が受けられる場合

生命保険料を払っているならば生命保険料控除、地震保険料を払っているならば地震保険料控除が適用できます。毎年10月〜11月ごろに、加入している保険会社から届く控除証明書を確認して確定申告を行います。
なお、生命保険料控除では最大で所得税12万円・住民税7万円、地震保険料控除では最大で所得税5万円・住民税2万5000円の所得を差し引くことができ、税金の負担を減らせます。

④医療費控除・セルフメディケーション税制が利用できる場合

多くの医療費を支払った場合には、医療費控除を利用して所得を差し引くことができます。医療費控除の計算式は、所得が200万円以上か200万円未満かで変わります。

【所得200万円以上】
(1年間の医療費の合計-保険金や公的給付などの補てん金額)-10万円
【所得200万円未満】
(1年間の医療費の合計-保険金や公的給付などの補てん金額)-所得の5%

現役時代に医療費控除を利用したことのある方は「医療費が10万円を超えないと利用できない」と覚えているかもしれません。しかし、年金受給者は「所得200万円未満」に該当するケースがほとんどです。この場合、医療費が「所得の5%」を超えたら医療費控除が利用できます。仮に所得が140万円ならば、医療費が7万円超のときに医療費控除が利用できます。

また、そこまで医療費がかかっていないという方でも、セルフメディケーション税制が利用できるかもしれません。セルフメディケーション税制は、所定の健康診断を受けている人が対象の市販薬を購入し、年間費用が1万2000円を超えた場合、その超過分(最大8万8000円)が控除対象になる医療費控除の特例制度です。

なお、医療費控除とセルフメディケーション税制は、どちらか片方しか使えませんので、よりお得な方を活用しましょう。また、医療品の購入時や健康診断などのときにもらった領収書は、税務署から提示や提出を求められる場合に備え、5年間保管しましょう。

⑤ふるさと納税をした場合

ふるさと納税は、自分が選んだ自治体に寄付をすることで、2000円を超える金額を所得税や住民税から控除できる制度です。多くの自治体からは、寄付金の3割を上限とする返礼品ももらえます。また、寄付金の使い道(子育て、医療、農業など)を選ぶこともできます。

ただ、いくらでも所得税や住民税から控除できるわけではありません。ふるさと納税で自己負担額が2000円になる金額には、上限があります。ふるさと納税の上限額は、年収や家族構成により異なります。

  • 自己負担2000円となる寄付金上限額の目安
65歳未満 65歳以上
年金額面 独身 配偶者を扶養している場合 独身 配偶者を扶養している場合
150万円 11,000円 3,000円 0円 0円
200万円 20,000円 11,000円 12,000円 4,000円
250万円 28,000円 20,000円 24,000円 15,000円
300万円 37,000円 29,000円 36,000円 27,000円
350万円 46,000円 38,000円 46,000円 38,000円
400万円 58,000円 47,000円 58,000円 47,000円
450万円 69,000円 61,000円 69,000円 61,000円
500万円 79,000円 71,000円 79,000円 71,000円

(株)Money&You作成

たとえば、年金250万円・65歳で配偶者を扶養している方がふるさと納税する場合、自己負担2000円となる寄付金上限額は1万5000円です。なお、返礼品は寄付金の3割が上限ですので、4500円相当の返礼品がもらえるとわかります。

自分のふるさと納税の上限額は、ふるさと納税を扱うウェブサイトでシミュレーションできます。自分のケースを確認した上で、ふるさと納税を行いましょう。

⑥損益通算・繰越控除ができる場合

損益通算とは、複数の口座の利益と損失を合算した金額で税金の計算を行うことです。たとえば、2つの金融機関で投資信託を買い、一方で30万円の利益、もう一方で50万円の損失があったとします。このとき、確定申告を行い損益通算すれば、利益と損失が相殺されて利益が0円になるため、税金がかからなくなります。

また、損益通算をしてもなお引ききれない損失(上の例では、20万円)は、翌年以降3年以内に生まれた利益と相殺することができます。これを「繰越控除」といいます。
損益通算・損失の繰越控除は節税に役立つので、もし損失を抱えているなら忘れずに確定申告しておきましょう。

ただし、繰越控除で3年間にわたって損失を繰り越したい場合は、ほかに確定申告することがなくても確定申告が必要です。また、NISAやiDeCoでの利益、損失は損益通算や繰越控除の対象外です。NISAは2024年から制度が改正されますが、損益通算・繰越控除はこれまで同様できない点には注意しましょう。

  • 損益通算・繰越控除のイメージ

例 A投信が+30万円、B投信が-50万円以下の場合/①両方とも課税口座で取引…損益通算・繰越控除できる 課税口座A:A投信+30万円/課税口座B B:B投信-50万円→損益通算することで、損益は−20万円となるため、税金は0円。損失は繰越控除で翌年以降の利益と相殺できる ②A投信は課税口座、B投信はNISA口座で取引…損益通算できない 課税口座 A投信+30万円/NISA口座B B:B投信-50万円→損益通算できないため、損益は+30万円。60,945円の税金がかかってしまう ③両方ともNISA口座で取引…繰越控除できない NISA口座 A投信 +30万円 B投信 −50万円→損益は−20万円なので、税金は0円。しかし、課税口座のように損失を繰り越し、繰越控除することはできない

(株)Money&You作成

過去5年分なら「還付申告」で税金が安くなる

ここまで読まれた方のなかには、「確定申告していなかったから損しているかもしれない」という方もいるかもしれません。しかし、その場合も「還付申告」という手続きを行うことで税金を取り戻すことができます。

還付申告の期限は、対象となる年の翌年1月1日から5年間です。過去5年分を確認して「確定申告をし忘れていた」「控除が漏れていた」ということがあれば、忘れずに還付申告をしておきましょう。

  • 本ページは2023年12月時点での情報であり、その正確性、完全性、最新性等内容を保証するものではありません。また、今後予告なしに変更されることがあります。

お申込みに際しては、以下の留意点を必ずご確認ください。

オススメ

頼藤太希

(株)Money&You代表取締役/マネーコンサルタント
中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書累計120万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。

mmag_000362

ページトップ戻る