
【この記事を読んでわかること】
新NISAは投資の利益を一生涯非課税にできる制度です。制度改正により2024年から使い勝手が向上しましたが、新NISAの口座は1人1口座、投資金額1800万円(生涯投資枠)まで利用できます。
夫婦それぞれで新NISAを利用すれば、一世帯にNISA口座が2つある状態にでき、非課税で投資できる金額(非課税投資枠)を多くできます。
しかし、生涯投資枠を使い切りたくても使い切れない家庭も多いかもしれません。夫婦の投資額を合計しても1800万円に届かないケースも中にはあることでしょう。
その場合でも、夫婦でそれぞれ新NISAを利用したほうがよいのでしょうか。
夫婦でそれぞれ始めるメリットはあるのか、一緒に考えていきます。
新NISAの非課税投資枠には、つみたて投資専用のつみたて投資枠と、一括購入もできる成長投資枠の2つがあります。つみたて投資枠では年120万円、成長投資枠では年240万円まで投資ができます。そして、1人あたり1,800万円まで(生涯投資枠)の投資で得られた利益にかかる税金を非課税にできます。
もしも、非課税投資枠が少ないと思ったら、夫婦で新NISAを利用することで、1年間に以下のような投資ができるようになります。
2人分の非課税投資枠が使えるようになるため、1年間に投資できる金額は単純に倍増します。生涯投資枠の上限も、倍の3,600万円です。夫婦で新NISAに取り組めば、その分資産形成のスピードが増します。
ただ、旧NISAの統計ではありますが、金融庁「NISA口座の利用状況調査」(2022年12月末時点)によると、旧NISAの制度のうち、2022年のつみたてNISA口座での買付金額が20万円以下の口座数は約734万口座中 423万口座(買付金額0円を含む)でした。
旧NISAのつみたてNISAの1年間の非課税投資枠の上限は年40万円です。しかし、つみたてNISAで投資した人の半数以上が、20万円も投資をしていないのです。
ただ、夫婦全体で毎月捻出できる投資金額が少なかったとしても、たとえば夫(妻)は「教育資金+余暇資金担当」、妻(夫)は「老後資金担当」などと、目的別にお金を貯めるときに、口座が分けられるので役立ちます。
非課税投資枠が活用しきれていないのであれば、夫か妻のどちらかだけが新NISAを利用しても、特に問題はありません。たとえば、夫が月2万円ずつ積立投資する場合と夫と妻が月1万円ずつ積立投資する場合で、同じ投資先に同じタイミングで投資するならば、運用結果も同じになります。
しかし、離婚してしまった場合を考慮すると、新NISA口座を別にしておくメリットがあります。
離婚する場合、どちらか片方だけが資産を築いていても、夫婦の共有財産は分割することになります(なお、結婚前からNISAを利用して築いた資産は、分割の対象外です)。
新NISAの資産を分割するには、これまで新NISAで投資してきた商品を売却する必要があります。夫(妻)の新NISA口座から妻(夫)の新NISA口座や課税口座などに、商品をそのまま移管することはできません。
新NISAで1,800万円の生涯投資枠を使い切っていると、新規の投資はできません。しかし、そのまま売却せずに資産を保有し続けることで複利運用が継続できます。新NISA口座で投資した1,800万円が3,000万円に増えていても、その3,000万円から生まれる運用益は全額非課税です。
しかし、離婚によって財産を分割することになれば、複利運用がリセットされてしまいます。
現金化した後に、それぞれが新NISAで投資することもできますが、新NISAで年間に投資できる金額は360万円までですから、再び1,800万円まで投資するには最低でも3年(もともと新NISA口座を保有していた夫または妻)・5年(新NISA口座を保有していなかった夫または妻)かかります。離婚リスクに備えるのであれば、夫婦別々にNISA口座を利用した方がいいでしょう。
なお、夫婦それぞれがNISAを利用するということは、夫は夫のNISA、妻は妻のNISAの資産を自分の責任で管理することでもあります。たとえ生涯投資枠を使い切らなかったとしても、新NISA口座を分けて夫婦でそれぞれ投資をすることで、資産形成を相手任せにせず「自分ごと化」できる点はメリットです。
夫婦どちらか片方だけで新NISAを利用する場合には、相続税のデメリットについても考えておく必要があります。亡くなった人が新NISA口座で運用していた資産は相続財産となり、相続税の課税対象になります。
相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算します。この金額までは相続しても税金はかかりません。さらに、配偶者は「相続税の配偶者控除」が適用できます。配偶者が相続した遺産のうち、課税対象となるものが1億6,000万円までであれば相続税が課税されません。また、1億6,000万円を超えても配偶者の法定相続分までであれば相続税は課税されません。
ただ、亡くなった夫(妻)が3億円、4億円などと、相続税の配偶者控除よりもずっと大きな資産を持っていた場合、その資産を妻(夫)が相続するときに多額の相続税を支払う必要が出てきます。新NISA口座の資産も相続財産ですから、相続税の計算に含まれるということです。
なお、亡くなった夫(妻)の新NISA口座の資産は、妻(夫)の課税口座で相続します。
NISA口座で引き継げないので要注意です。課税口座で引き継ぐというと、税金がかかると思われるかもしれませんが、それはありません。新NISA口座から自分の課税口座に資産を移すとき、その移した価格が新しい取得価格となるからです。
「相続税が高くなるのは困るから」と、ある程度の資産になったタイミングでパートナーに資産を分けておこうと考える人もいるかもしれません。しかし、この場合は夫婦であっても「夫婦間贈与」といって、贈与税の課税対象になる場合があります。
ただし、特定の条件を満たしていれば贈与税が発生しないケースもあります。
これらの贈与については、贈与税が発生しません。
相続時のことも考えると、夫婦別々に新NISA口座を利用していた方がいいでしょう。
新NISAに夫婦で取り組むならば、ポートフォリオ(資産配分)について夫婦で共有しておきましょう。
まず、夫婦全体のリスク許容度を考えます。リスク許容度とは、自分が損失にどのくらい耐えられるか示した度合いのこと。客観的には、年齢が低い・収入や資産が多い・投資歴が長い・扶養家族が少ないほどリスク許容度が高いとされますが、当の本人がリスクを取りたくないと思っているならば、リスク許容度は低くなります。
リスク許容度は高ければよい、低ければよくない…といったものではありませんので、自分や夫婦でのリスク許容度を考えてみましょう。
リスク許容度が把握できたら、それに適した資産で長期・積立・分散投資を行います。リスクとリターンにはトレードオフ(比例)の関係があり、何に投資するかによって異なります。投資先の商品でいうと「債券<不動産<株式」、投資先でいうと「国内<先進国<新興国」の順にリスクとリターンが高くなります。そのなかから、自分のリスク許容度に合わせて投資先を選びます。
たとえば、投資信託でいうならば、リスク許容度が低い場合は国内外の株と債券の4資産、そこそこのリスク許容度が取れるのであれば国内外の株・債券・不動産の8資産に投資するバランス型の投資信託などが向いています。さらに積極的にリスクが取れるのであれば全世界株・米国株に投資する投資信託もよいでしょう。
夫婦全体でポートフォリオを考えて、お金を堅実に増やしていきましょう。
お申込みに際しては、以下の留意点を必ずご確認ください。
頼藤 太希
マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。
『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用 新NISA対応改訂版』(宝島社)など書籍100冊、著書累計170万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki