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【この記事を読んでわかること】
大学への進学率は年々上昇しています。文部科学省「学校基本調査」によると、2024年度の大学進学率は59.1%となっています。60%を突破するのも時間の問題でしょう。ただ、大学進学で気になるのはやはりお金のことですよね。私立・国公立、文系・理系、学部などの違いこそありますが、最も教育費がかかるのは大学進学のタイミングです。
「子どもを大学に進学させたいけれど経済的な問題がある」という方を支援するために、国は「大学無償化」の制度を設けています。今回は、大学無償化の制度の概要と手続き、奨学金の併用について紹介します。
大学無償化の制度は、正式名称を「高等教育の修学支援新制度」といいます。しっかりとした進路への意識や進学意欲があれば、家庭の経済状況に関わらず、大学・短大・高等専門学校・専門学校で高等教育が受けられるようにするという目的で、2020年度から実施されています。
制度開始当初、高等教育の修学支援新制度の対象になる方は、基本的に住民税非課税世帯もしくはそれに準ずる世帯の学生でした。対象になると、入学金や授業料の減免措置が受けられ、さらに返済不要の給付型奨学金がもらえます。
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2024年度に高等教育の修学支援新制度の対象となる世帯の範囲が拡大しました。世帯年収が600万円程度までの世帯で、子どもが3人以上の多子世帯や、私立大学理工農系の学部・学科に在籍する学生も新たに対象となりました。
そして2025年度からは、3人以上の子どもを扶養している多子世帯の所得制限が撤廃されました。
文部科学省「令和7年度からの多子世帯に対する大学等の無償化について」より
上図の赤枠で囲われている部分が、2025年(令和7年度)から新たに大学無償化の対象になる方です。新たに合わせて約41万人が高等教育の修学支援新制度の対象になります。
高等教育の修学支援新制度の対象になる方が受けられる授業料や入学金の減免や給付型奨学金の金額は、学校の種別や国公立・私立の違い、自宅から通うか自宅外か、昼間制か夜間制かによって細かく定められています。
文部科学省「授業料等減免額(上限)・給付型奨学金の支給額」より(株)Money&You作成
毎年の授業料に加えて、入学金もサポートしてくれます。さらに、年間数十万円におよぶ給付型奨学金ももらえます。給付型奨学金は昼間制でも夜間制でも同額です。
対象者の世帯が子ども3人以上の多子世帯の場合は、世帯収入に関係なく上記の金額の給付が受けられます。
子育てにはただでさえお金がかかります。多子世帯ならばなおのこと、子どもにかかるお金の負担は大きくなってしまいます。ですから、大学無償化によって大学などの進学にかかる費用が少なくなるのはありがたいですよね。
ただ、「多子世帯」の子どものカウントには注意点があります。
多子世帯と認められるには、「3人以上の子どもを同時に扶養している」必要があるのです。
文部科学省「令和7年度からの多子世帯に対する大学等の無償化について」より
上図の左~中央、第1子・第2子が大学生となったときには、第1子から第3子まですべて扶養しているので、大学生の第1子・第2子は支援対象です。しかし上図の右のように、第1子が大学を卒業後に就職して扶養から外れると、扶養している子どもは2人になってしまうので、支援対象外になってしまいます。
なお、支援対象の子どものアルバイトは認められていますが、一定の収入を超え扶養から外れると「扶養する子供」としてカウントできなくなるため注意が必要です。
また、大学無償化の対象となるには「学業要件」を満たす必要もあります。ただし、高校在学時の成績だけでは否定的な判断をせず、レポートの提出や面談等により、学習意欲や進学目的等を確認できれば要件を満たすことができます。
文部科学省「令和7年度以降の「高等教育の修学支援新制度」の学業要件について」より
認定後も学習意欲と成果を毎年確認されます。授業の出席率や取得単位数が一定以下になると警告や廃止(支援打ち切り)が行われます。留年が確定した場合も支援の対象外となります。
最も、普通に授業に出席して単位を取り、成績が上位3/4以上であれば問題ありません。また、災害、傷病、その他やむを得ない事由がある場合には、警告や支援打ち切りの対象にはなりません。
令和7年度の多子世帯向けの大学無償化の申込は、入学した大学などの学校を通じて行う「在学採用」のみです。進学先の学生窓口で申込書類を受取って、必要事項を記入(マイナンバーが必要)し書類を提出すると、学校が日本学生支援機構に手続きをしてくれます。選考の結果支援が決定すればその支援が受けられるという流れです。なお、令和8年度進学予定の高校3年生からは、令和7年度中に事前の予約申込(予約採用)ができるようになります。
具体的な申込方法は、学校の学生窓口もしくは、学校の奨学金に関する案内やウェブサイト等で確認するようにしましょう。
多子世帯と違い、子ども2人以下の場合は、大学無償化の対象となるには、世帯収入の要件を満たす必要があります。
文部科学省「令和7年度からの多子世帯に対する大学等の無償化について」より
上図の下側に世帯収入の目安が記載されています。それぞれの支給額は次の割合になります。
なお、約380万円以上600万円未満の理工農系の場合は「給付型奨学金」はありません。
子ども2人以下の場合の申込には、高校3年次に行う「予約採用」と、大学1年〜4年次に行う「在学採用」があり、それぞれ要件が異なります。
<子ども2人以下の場合の要件>
区分 | 要件 |
---|---|
予約採用 (高校3年生) |
高校2年次までの評定平均値 3.5以上:進路指導等において学修意欲を見る |
在学採用 (1年生) |
以下のいずれかに該当 ①高校の評定平均値が3.5以上 |
在学採用 (2~4年生) |
以下のいずれかに該当 ①GPAが上位2分の1以上 ②以下の両方を満たす a.修得単位数が標準単位数以上 b.学修計画書で学修意欲、目的、将来の人生設計等が確認できること |
文部科学省「支援措置の対象となる学生等の認定要件について」より
大学無償化の制度は、次のような奨学金と併用することができます。
貸与型奨学金でよく利用されているのは、日本学生支援機構が運営する奨学金です。第一種奨学金(無利子)と第二種奨学金(有利子)があり、家計基準や学業成績などの基準を満たせば利用できます。ただ、第一種でも第二種でも返済する必要がありますので、前もって返済計画を立てて利用するようにしましょう。
日本学生支援機構以外にも、地方自治体や民間の財団などが独自に設けている奨学金があります。高校、あるいは大学などの入学後に一定基準以上の成績を取っているか、世帯収入が一定以下か、進学先の学校が給付型奨学金の対象校かというところがチェックされます。貸与型奨学金と違って、返済する必要のない奨学金がもらえるのは大きなメリットですが、選考は厳しいので、日頃より勉学に励む必要があります。複数の給付型奨学金の制度に申込んでおくのがおすすめです。
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過去40年で増えている大学の学費。どうやって準備する?
子どもが望む進路に進ませてあげたいのが親心というものですが、何かとお金がかかるのも事実です。今回紹介した大学無償化の制度や奨学金などを活用して、子どもが後悔しない選択を応援できるように備えておきましょう。
高山 一恵
ファイナンシャルプランナー(CFP)
(株)Money&You取締役。中央大学商学部客員講師。一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学文学部卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。NHK「日曜討論」「クローズアップ現代」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。「はじめての新NISA&iDeCo」(成美堂出版)、「マンガと図解 はじめての資産運用」(宝島社)など書籍100冊、累計190万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。X(旧Twitter)→@takayamakazue
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