年金が増える!「繰り下げ受給」とは?1年遅らせると年額8.4%も増額する?
執筆者:ファイナンシャルプランナー(AFP)|池田 幸代
-
- ためる・ふやす
日本人の平均寿命が延び続けていて、「人生100年時代」と呼ばれるようになりました。またコロナ禍で生活様式が変わってしまい、将来の不透明さが増しています。今までと違った環境で老後の安心を得るために、できるだけ年金を多く受給したいと考える人は多いのではないでしょうか。
年金は同じ保険料を納めても、受取る時期によって年金額が変わるしくみになっています。定年後も働き続ける環境が整ってきて、いつから年金をもらうのか選択肢が広がってきました。
今回は、年金の受取り開始時期を遅らせる「繰り下げ受給」の内容を確認していきましょう。
年金の受取り方には「繰り下げ受給」という制度がある
国民年金や厚生年金に加入していて条件を満たす人は、原則65歳から年金を受取ることができます。ただし、本人が希望すれば年金の支給開始を66歳以降好きなタイミングで、1か月単位で遅らせることができます。これを「繰り下げ受給」といいます。2022年3月までは繰り下げ受給の上限が70歳でしたが、2022年4月1日以降75歳※に引き上げられました。
※昭和27年4月1日以前生まれの方(または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している方)は、繰り下げの上限年齢が70歳(権利が発生してから5年後)までとなります。
繰り下げ受給をすると、65歳から受取る年金額とくらべて1カ月ごとに0.7%増額されます。元気なうちはできる限り働いて繰り下げ受給をすれば、生涯増額された年金を受取ることができるのです。
一方、60歳以上65歳未満の間に年金をもらうことを「繰り上げ受給」といいます。この場合には年金を早く受取ることはできますが、1か月ごとに0.4%※減額されます。
※昭和37年4月1日以前生まれの方の減額率は、0.5%(最大30%)となります。
繰り下げ受給のメリット
繰り下げ受給を請求すると、65歳から受取る年金額とくらべ、1カ月ごとに0.7%増額されます。受取る時期を遅くすればするほど、割増される仕組みになっています。
増額率は、65歳になった月から繰り下げ受給を請求した月の前月までの月数に0.7%をかけて計算されます。
増額率の計算式
0.7%×65歳になった月から請求した月の前月までの月数=増額率
たとえば、1年(12カ月)遅らせると8.4%、3年(36カ月)遅らせると25.2%、5年(60カ月)遅らせると42%増額できます。10年遅らせる75歳からの年金受給開始の場合では、84%も増額できることになります。2024年度の国民年金は、満額で年額81万6,000円ですから、この場合に5年受給を遅らせたとすると、年額115万8,720円になります。年間に約34万円も増えると、生活に余裕ができますね。
特に男性にくらべると女性のほうが長生きなので、お一人になったときの生活の維持を考えると、増額された年金を受取るメリットは大きいでしょう。
なお、国民年金だけでなく、厚生年金も同様に増額されます。
繰り下げ受給は何歳からお得になるの?
少しでも多く年金をもらいたいから、繰り下げ受給をしたい。でも不運にも寿命が短く受取る期間が短くて、結局損をするようだったら普通に65歳からもらうほうがいいのでは…、と迷う方は多いでしょう。
繰り下げ受給の場合、長生きをすればよいのですが、自分の寿命とセットで考えなければなりません。日本人の平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳(厚生労働省「令和4年簡易生命表」)です。これからも寿命が延び続けていき、長生きをすることが確実という見通しならば、繰り下げ受給は老後の安心を得る保険の役割を果たせるといえるでしょう。
繰り下げ受給をした場合、受給開始年齢から約11年10カ月で繰り下げて受取った年金額を取り戻すことができます。65歳を100%とすると
100%÷0.7%=142.85
142.85カ月は、約11年10カ月です。
たとえば、年金受給開始を65歳から70歳まで5年繰り下げた場合には、70歳+11歳で81歳10カ月以上長生きをすれば、生涯に受取る年金額は多くなります。繰り下げ受給が損になるか、それとも得になるかの損益分岐点は、65歳を起点とすれば81歳ということになります。長生きをすればするほど、得だということです。
繰り下げ受給の損益分岐点(65歳起点)
受給開始年齢 | 年金総額の増額率 | 損益分岐点 |
---|---|---|
65歳 | - | - |
66歳 | 8.4% | 77歳以上 |
67歳 | 16.8% | 78歳以上 |
68歳 | 25.2% | 79歳以上 |
69歳 | 33.6% | 80歳以上 |
70歳 | 42.0% | 81歳以上 |
71歳 | 50.4% | 82歳以上 |
72歳 | 58.8% | 83歳以上 |
73歳 | 67.2% | 84歳以上 |
74歳 | 75.6% | 85歳以上 |
75歳 | 84.0% | 86歳以上 |
- ※(注)2022年4月以降
- ※図表:筆者作成
年金受取りの開始時期は、国民年金と厚生年金をいずれか一方だけ、または両方同時に繰り下げすることができます。しかし、例外もあります。障害年金や遺族年金を受取っている間は、繰り下げ受給をすることができません。
また、繰り下げ受給をする場合には、年金を請求するまで(繰り上げ待機中)は、本来65歳から受取る振替加算※や加給年金※をもらうことができません。年金が支給されないので、何らかの収入を確保しておく必要もあります。さらに一度請求したら、取り消しができません。家族構成や年齢、働き方によっては、年金を先送りした分もらい損ねるというケースもあるので、収入、貯蓄、健康状態なども考慮に入れて、年金の損得はトータルに検討する必要があります。
- ※ 振替加算:年金額が低い配偶者のための加算で、配偶者が65歳で老齢基礎年金を受取れるようになったときにつきます。単独で受取ることができず、繰り下げによる増額はありません。
- ※ 加給年金:厚生年金の加入期間が20年以上ある人が、生計を維持されている65歳未満の配偶者や一定年齢以下の子がいると支給される上乗せの年金です。加給年金は単独では支給されず、老齢厚生年金とセットで受取ります。繰り下げたことによる加給年金の増額はありません。
年金だけで老後は安心?
年金は繰り下げ受給をすれば、年金額を増額できることは理解できましたが、リーマンショック以来、日本では所得が伸び悩んでいます。残念ながら余程のことがない限り、年金だけで生活できるという人は少ないのではないでしょうか。厚生労働省の「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、厚生年金の平均年金月額は14万3,973円、国民年金では5万6,316円です。この金額は男女計の平均なので、女性の受給額はもっと低い年金額です。老後の生活は、公的年金だけでは賄いきれない現状があります。
長寿は喜ばしいことですが、長期化した老後を安心で、安定した生活を送っていくには、それなりの個人単位での準備が必要な時代だといえます。今のうちからiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)やNISAといった税制メリットがある制度を利用して、資産形成をしておくと安心でしょう。
まとめ
- 年金は、繰り下げ受給をすることで受給額を増やすことができる。
- 繰り下げ受給は、一度請求すれば、増額した年金を受取ることができ、1年遅らせると8.4%増額になる。
- いつから年金を受取ると得になるかの損益分岐点はあるが、受取時期はトータルに検討すべき。
- 繰り下げ受給を利用しても、公的年金だけでは厳しい現実がある。自助努力で早い段階から資産形成が必要。
- ※ 本ページは2024年8月時点での情報であり、その正確性、完全性、最新性等内容を保証するものではありません。また、今後予告なしに変更されることがあります。
お申込みに際しては、以下の留意点を必ずご確認ください。