
トランプ大統領の関税政策が世界を混乱させています。
桁外れの関税率の発表を行い、日本を含む世界中の国々を文字通り「恐怖」に陥れたと言っても過言ではありません。中国からの輸入品に対して、合計145%という法外な関税を課す方針を打ち出したことに対し、中国側も報復措置を宣言しました。これを受け、世界の株式市場は一斉に反応し、大きな波乱に包まれています。
しかしながら、この「サプライズ」は本当に予想外だったのでしょうか?
彼の考え方を探ろうと、先週末本棚の奥からトランプ氏の2004年の著書「Trump: How to Get Rich」(邦題:トランプ自伝 ― 巨富を築く戦略)を探し出し、改めて読み解くと、むしろこれは「想定内」の行動ではないかと思えるのです。(以下Donald J. Trump著「 How to Get Rich」より各一文を引用)
「交渉は戦争」:取引相手を「打ち負かす」という思考
“Deals are my art form. Other people paint beautifully on canvas or write wonderful poetry. I like making big deals, preferably big deals that make me a lot of money.”
「取引は私にとって芸術のようなものです。他の人たちはキャンバスに美しい絵を描いたり、素晴らしい詩を書いたりしますが、私は大きな取引をまとめるのが好きです。できれば、私に多くのお金をもたらすような大きな取引が理想です。」
トランプ氏は交渉を「芸術」と表現しながらも、それを常に勝ち負けの文脈で捉えています。この本では「交渉とは相手を打ち負かす場である」と繰り返し述べており、妥協やウィン・ウィンといった発想はほとんど見られません。今回の関税という「兵器」を使って相手国に圧力をかけようとする姿勢は、まさにこのビジネスマン的な交渉観の延長線上にあるといえます。
「恐怖を利用せよ」:市場の動揺は“武器”になる
“Sometimes, by losing a battle you find a new way to win the war.”
「時には、一つの戦いに敗れることで、戦争全体に勝つための新たな方法が見つかることもあります。」
トランプ氏は一時的な敗北や損失を恐れません。むしろ、相手や市場が「恐怖」に包まれることで、自分の交渉上の立場が強化されると考えています。今回の関税政策により、市場は混乱し、企業は動揺しました。しかし、これは彼にとって「織り込み済み」であり、むしろ「歓迎すべき反応」であった可能性すらあります。
「Think Big」で攻める男、トランプ──関税145%の読み解き方
“If you’re going to be thinking anyway, you might as well think big.”
「どうせ考えるのなら、大きく考えたほうがいいのです。」
本書の中でトランプ氏は、「スケールの大きさ」や「強気の態度」が、自分のブランドを形作ってきたと語っています。関税145%という、経済合理性を超えた大胆な数字も、“トランプらしさ”の演出であり、選挙戦を見据えた政治的メッセージでもあると考えられます。
トランプ氏にとって関税とは、経済政策ではないようです。それは「ディール(取引)の武器」であり、「心理戦のカード」、さらには「自己演出の舞台装置」なのです。彼の著書を読んでいれば、今回の政策は決して“突飛”でも“予測不能”でもないことが理解できます。市場がサプライズを受けたとしても、トランプ氏自身の行動原理は終始一貫しているのです。
今、投資家に求められるのは、その政策の合理性を議論することではありません。トランプ氏の行動を「交渉者」として読み解くことなのです。それが、これからの市場の動きを予測する上でのカギとなるのです。
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岡元 兵八郎
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー
上智大学卒業後、ソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入社。東京・ニューヨーク勤務を含め26年間、外国株式関連業務に従事。上級管理職として機関投資家向けにグローバル株式投資の拡大を推進し、世界54カ国の市場への投資を支援。SMBC日興証券では米国株の分析・資料作成を担当し、個人投資家向けにも情報を発信。北米滞在10年、訪問国80超、33カ国以上の証券取引所・企業訪問の経験を持つ。2019年より現職。著書に『日本人が知らない海外投資の儲け方』、『本当に資産を増やす米国株投資』など。
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