米国株が反発、関税緩和観測とAI株高が追い風、S&P500は史上最高値まであと3.2%の水準に回復

執筆者:マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー

岡元 兵八郎

投資

2025年5月30日

S&P500は週間で+5.27%、ナスダック100は+6.81%上昇

先週(5月12日週)の米国株式市場は、米中間の関税緩和観測やAI関連銘柄の上昇を追い風に、大きく反発しました。S&P500は週間で+5.27%、ナスダック100は+6.81%と、それぞれ大幅高となり、ダウ平均も+3.41%と堅調でした。

これにより、3指数はいずれも2025年4月の下落局面から本格的な切り返しを見せ、年初来リターンもプラス圏に回復しています。

特にナスダックは5営業日続伸を記録し、AI関連株への投資熱の根強さを改めて印象づけました。また、S&P500は2月19日に記録した過去最高値からわずか3.17%下の水準まで回復しており、相場の回復基調が鮮明になっています。

トランプ政権と中国が合意した「90日間の関税停止」は、市場にとって大きなネガティブ要因の1つであった「関税リスク」の一時的後退を意味します。これにより、追加関税を115%(米国の対中関税は125%から10%へ、中国の報復関税も同様に145%から30%へ)引き下げられる見通しとなりました。ただし、トランプ米大統領は「交渉が失敗すれば関税は再度大幅に引き上げられる」とも発言しており、リスクが完全に後退した訳ではありません。

AIブーム続く、サウジ発「ソブリンAI」にも注目

個別銘柄では、スーパー・マイクロ・コンピューター[SMCI]やエヌビディア[NVDA]、パランティア・テクノロジーズ[PLTR]、アドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]などのAI関連銘柄が引き続き上昇を牽引。加えて、サウジアラビアが「ソブリンAI(国家主導のAIインフラ)」への数百億ドル規模の投資を進めるとの報道が、AI半導体メーカーに新たな成長機会を示唆しました。エヌビディアのジェンセン・フアンCEOも以前から「各国が自国文化とデータを保護するためにAIインフラを国内に持つ必要がある」と強調しており、このテーマは今後さらに注目を集める可能性があります。

また、先週米ボーイング[BA]は中東で2件の大型契約を獲得しました。カタール航空から160機・960億ドル、UAEのエティハド航空からも28機・145億ドルの受注を発表。両契約は米国製航空機の競争力を示すもので、特にトランプ米大統領の中東訪問とあわせて、外交・経済両面での「成果」とも捉えられています。

インフレの「一時的な鈍化」と関税の再燃リスク

経済指標では、4月の消費者物価指数(CPI)・総合が前年比+2.3%となり、2021年2月以来の低水準を記録。FRB(米連邦準備制度理事会)の2%インフレ目標に近づいたことが安心感を与えましたが、これはあくまで「一時的な低下」との見方が強く、今後は関税コストの転嫁により物価が再び上昇に転じると予想されています。

また、生産者物価指数(PPI)や小売売上高は予想をやや下回ったものの、個人消費は依然として底堅さを維持。第1四半期の個人消費支出は前年比+1.8%、4月の小売売上高も前月比+0.1%とプラスを維持しています。

消費者心理は悪化、ムーディーズが米国債を格下げ

一方で、ミシガン大学の消費者信頼感指数は50.8と歴史的低水準にまで低下しました。関税による物価上昇や雇用・所得への不安が背景にありますが、ここ数年は「消費者心理」のソフトデータと「実際の消費行動」であるハードデータに乖離があることも事実です。

この数値を額面通りに受け取れば消費は崩壊しているはずですが、実際には小売売上高は増加しており、現時点では懸念は懸念のままとなっています。

また、週末には格付け会社ムーディーズが米国債の格付けを「Aaa」から「Aa1」へ1段階引き下げたことも発表され、財政赤字の慢性化が中長期的なリスクとして浮上しました。これにより、S&P・フィッチに続き、3大格付け会社すべてが米国債を「トリプルA」から引き下げた形となります。

今週(5月19日週)は経済指標こそ少ないものの、ホームデポ[HD]など小売企業の決算発表が相次ぐほか、共和党主導の減税法案の行方にも注目が集まります。

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岡元 兵八郎

マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー

上智大学卒業後、ソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入社。東京・ニューヨーク勤務を含め26年間、外国株式関連業務に従事。上級管理職として機関投資家向けにグローバル株式投資の拡大を推進し、世界54カ国の市場への投資を支援。SMBC日興証券では米国株の分析・資料作成を担当し、個人投資家向けにも情報を発信。北米滞在10年、訪問国80超、33カ国以上の証券取引所・企業訪問の経験を持つ。2019年より現職。著書に『日本人が知らない海外投資の儲け方』、『本当に資産を増やす米国株投資』など。

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