
米ドル/円は、1月の158円から4月には140円を割るまで下落した。この中で、3月までの米ドル/円の下落は、基本的に日米金利差(米ドル優位・円劣位)縮小に沿ったものだった(図表1参照)。
【図表1】米ドル/円と日米10年債利回り差(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
3月までの日米金利差縮小の主導役は、日本の金利の大幅な上昇と見られた(図表2参照)。その背後には、日銀が年内という早期に1%まで政策金利引き上げを目指すとした「タカ派」に急傾斜した影響があったと見られ、トランプ政権からの非公式な低金利見直し要請の可能性もあったのかもしれない。
【図表2】日米の10年債利回りの推移(2024年9月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
一方、米金利は3月にかけて低下傾向が続いたが、これも日米金利差縮小の一因ではないだろうか。背景には、上述のように第1四半期の米実質GDP伸び率がマイナスになるなど、米景気減速の影響があっただろう。その上で、トランプ大統領の関税政策が景気後退と物価上昇を同時進行させるスタグフレーションをもたらすといった景気先行きへのより強い懸念も、米金利低下を後押ししたと考えられる。
ところが、ここに来て米景気はそうした懸念に反して、回復に転じたとの見方が浮上している。定評のあるアトランタ連銀の経済予測モデルのGDPナウは5月30日、足下第2四半期のGDP伸び率の予想について、3.8%へと大きく上方修正した。スタグフレーションへの懸念から、一転して四半期成長率が3%以上のプラス成長となるなら、それは最近にかけて続いてきた米ドル安の流れを変えるだろうか。
ただ米景気回復で米金利が上昇しても、それが米ドル高をもたらすかは微妙ではないか。米金利は4月からすでに上昇に転じていたが、それは当初、関税政策などのトランプ大統領の政策への不信感に伴う米国債売りの結果とされ、むしろ米金利上昇を尻目に米国株、米ドルが下落する「悪い金利上昇」となった。
そして5月に入ると、大手格付け会社の米国債格下げなどをきっかけに、米財政赤字拡大への懸念が再燃した。こうした中で、米金利上昇は米ドル高をもたらしにくくなっている。
米景気回復が続く中でも、米財政赤字拡大への懸念がより強く意識された結果、米金利上昇に反して米国株や米ドルが下落する「悪い金利上昇」は、トランプ政権1期目の2018年1~3月にも見られた(図表3参照)。
【図表3】米ドル/円と日米10年債利回り差(2016~2020年)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
2018年第1四半期の米GDP伸び率は2%以上で、その前後の四半期成長率も2~4%と高いプラス成長が続いていた。しかし、上述のように2018年第1四半期に「悪い金利上昇」となったのは、トランプ減税法案の議会成立により財政赤字拡大への懸念が高まった影響が大きかったとされている。
今回もまさにトランプ減税案の議会審議が続く中で、財政赤字拡大への懸念が再燃している。こうした中では米景気回復に伴う米金利上昇も、それが米ドル安の流れを変えるより、むしろ2018年第1四半期の「悪い金利上昇」の再現で、さらに米ドル安を拡大させる懸念もあるのではないか。
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吉田 恒
マネックス証券 チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長
大手の投資情報ベンダーの編集長、社長等を歴任するとともに、著名な国際金融アナリストとしても活躍。
2000年ITバブル崩壊、2002年の円急落、2007年円安バブル崩壊、2016年トランプ・ラリーなどマーケットの大相場予測をことごとく的中させ、話題となる。
機関投資家に対するアナリストレポートを通じた情報発信はもとより、近年は一般投資家および金融機関行員向けに、金融リテラシーの向上を図るべく、「解りやすく役に立つ」事をコンセプトに精力的に講演、教育活動を行なう。
2011年からマネースクエアが主催する投資教育プロジェクト「マネースクエア アカデミア」の学長を務める。2019年11月より現職。
書籍執筆、テレビ出演、講演等の実績も多数。