
これまでは「選挙は買い」が相場の定石だった。正確に言うと、選挙で与党の勝利が株高につながってきた。2012年末の第二次安倍政権誕生以降、ずっとマーケットは上がってきたが、選挙での与党勝利がアベノミクス的な政策の継続につながる期待が外国人の買いを呼び込んできた面がある。安倍政権後半では外国人は売り越しに転じたが、それは「今度こそ日本企業が変わる」と信じた期待が失望に変わったからで、与党の勝利=アベノミクス継続=日本株買いの構図は基本的にはそのまま維持されてきた。
アベノミクス継続を好感したわけではないとしても、少なくとも与党勝利=日本の政治の安定=政策実行の確実性維持というのが株買いにつながってきたのだろう。
では今回の参院選はどうか。どう考えても与党の勝利は見えない。では与党が敗北したら、株価は下落するのだろうか。必ずしもそうはならないと思う。
今回は負けても株高になるのではないか。負け方次第だろう。勝敗ラインとして挙げた過半数は16議席落としても維持できるが、果たしてどうか。いずれにせよ大幅議席減はほぼ間違いないのだから、多かれ少なかれ石破さんの責任問題になるだろう。その場合、市場はポジティブに反応するのではないか。つまり石破政権は何もやってこなかった(に等しい)政権なので、そんな政権なら退陣してくれたほうがいい、よって株価は上がるというシナリオだ。さらに石破政権退陣後にもっといいリーダーが出てくるかもしれないっていう期待が高まれば、上昇基調が強まるかもしれない。
しかし、上述のシナリオの実現性については、ちょっと難しいだろうなというのが正直なところだ。なぜかと言うと、今これだけ難しい局面で石破さんの後を継ぐっていうのは まさに火中の栗を拾うようなものだからだ。だからまっとうな後継者が出てこない恐れがある。
よってぎりぎり過半数維持か、仮に過半数割れでも、結局、後任がいないために石破政権がダラダラ続いてしまう - それは最悪のシナリオだと思うが - それがメインシナリオではないか。それは株価に与える影響としてはニュートラルか、ややネガティブなものとなるだろう。
今回の参院選の台風の目は参政党である。先日の都議会選挙でも躍進が目立った。日本経済新聞社とテレビ東京が27~29日に実施した世論調査で、参政党が日本維新の会を抜き野党第3党になった。参院選でも議席を伸ばすことが見込まれる。
そのニュースが世界に報じられたとき、海外の投資家はどのように日本を捉えるだろうか。
ついに日本も「世界標準の民主国家」になったのか、と感じるだろう。「世界標準の民主国家」とは極右・右派ポピュリズム政党が勢いを増す国家である。その背景にはインフレや失業などの生活苦のフラストレーションを移民のせいにするような反グローバリズムの動きがある。
これまで日本は政治リスクはゼロと見られてきた。グローバル投資というコンテクストのなかで、日本は政治の安定だけが取り柄だったが、もはやそれもゼロ・リスクではなくなった。
参政党躍進の報に接する外国人投資家は、そこから日本の社会構造の微妙な変化を嗅ぎ取るだろう。日本株相場にとって、その影響はすぐには表れないだろうが、長期的には考慮すべきポイントが何点かある。
明らかなのはインバウンドへの影響である。いまのところ、右派の主張は、観光客を敵視するものではない。しかし、日本人の多くが実質賃金が上がらず物価高で消費をためらうのを横目に、外国人訪日客が高額消費をすることに対する嫉妬心などがたまり、そのネガティブな感情を取り込んで右派が伸びている面もあるだけに、今後はどうなるか予断を許さない。すでにオーバーツーリズムの問題も指摘されている。もっともな論点だが、過剰規制になってインバウンドの勢いを削ぐリスクには注意したい。
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広木 隆
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト
上智大学外国語学部卒。神戸大学大学院・経済学研究科博士後期課程修了。博士(経済学)。帝京平成大学・人文社会学部経営学科教授。社会構想大学院大学・客員教授。国内銀行系投資顧問、外資系運用会社、ヘッジファンドなど様々な運用機関でファンドマネージャー等を歴任。2010年より現職。
テレビ東京「モーニングサテライト」、BSテレビ東京「NIKKEI NEWS NEXT」等のレギュラーコメンテーターを務めるなどメディアへの出演も多数。