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先週(8月25日週)の米国株市場は、8月22日(金)のジャクソンホール会議でのパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の利下げ示唆により、安心感から始まりました。しかし、経済データやエヌビディア[NVDA]決算を受けて方向感を失い、週末にかけては売りが優勢となりました。
S&P500は週間で0.1%下落、ナスダック100は0.35%下落の小幅安で引けました。月間ベースではS&P500が+1.91%、ナスダック100が+1.91%と8月としては堅調さを見せ、史上最高値更新の場面もありましたが、週末には、テクノロジーやAI関連株が大きく売られ、月末の調整色を強めたのが特徴でした。
8月相場が終わり、いよいよ9月に突入しました。投資家にとって、8月は夏休みシーズンで市場が閑散とする「夏枯れ相場」と言われることが多いですが、2025年の8月はむしろ波乱含みの展開でした。AI関連株を中心にテクノロジー株が乱高下し、小型株には資金が流入、月末には株価が調整するなど、投資家心理を揺さぶる場面が続きました。
先週8月27日(水)に発表されたエヌビディア[NVDA]の決算では、売上・利益ともに市場予想を上回る好決算でしたが、株価は下落。理由は単純で、期待が高すぎたからです。すでに株価に「高成長」が織り込まれていたため、予想超えでも「失望売り」に繋がりました。この動きは、AIブームを背景に急騰してきたテック株全体に影響を与え、週末にはAI関連株を含めたハイテク全般が売られる展開となりました。
とは言っても、「エヌビディア・ショック」と呼ばれるようなエヌビディアの株が大きく売られ、市場全体を引き下げたという訳ではありません。同社の株は8月29日(金)に3.3%下落しましたが、全体的に見て、すべてが下落したわけではありませんでした。
小型株に代表されるラッセル2000指数は8月に7%上昇し、2000年以来で最も好調な8月となりました。先週(8月25日週)も1週間で0.19%上昇しており、S&P500やナスダック100が下げた一方で、小型株は底堅さを見せた点は重要です。金利低下期待が背景にあり、投資家の視線が「メガテック一辺倒」からやや広がりつつある兆しと言えるでしょう。
セクター別では、テクノロジーの中でも銘柄間の明暗がくっきり分かれました。エヌビディア[NVDA]は決算後に下落しましたが、 ピュア・ストレージ[PSTG]やモンゴDB[MDB]は決算を契機に急騰し、今期のAI関連株の中でも際立った上昇を見せました。逆にマーベル・テクノロジー[MRVL]は売上が前年比+60%と好調ながら市場期待に届かず、1日で株価は18.6%の急落。AI関連株は「一括りで買われる」という段階から「銘柄別に選別される局面」に移っていることを示しています。
一方で、インフラや金融といったセクターにも資金の動きが見られます。特に小型金融株や一部の消費関連株には買いが入り、投資家が分散投資を意識し始めている様子がうかがえます。ここまで市場を牽引してきた「マグニフィセント7(特にエヌビディア[NVDA]やマイクロソフト[MSFT]などAI関連)」から、より広範なセクターに物色が広がるかが秋相場のポイントになるでしょう。
さて、9月相場を語る上で避けて通れないのが、「歴史的に最も弱い月」というアノマリーです。1928年以降の統計では、S&P500の9月平均リターンは1.1%の下げ、上昇確率はわずか44%。直近50年でも唯一マイナス平均となる月で、25年で見ても最弱の月です。特に9月後半にかけて下落が加速する傾向があり、投資家にとって注意が必要です。
もっとも、9月の下落はその後の反発に繋がるケースが多い点も忘れてはいけません。10月は平均的にプラスに転じ、11月は過去50年で最も強い月(平均+2.12%)です。つまり、9月は短期的に厳しい局面が想定される一方で、中長期投資家にとっては「押し目買いの好機」となる可能性があります。
9月のアノマリーは確かに存在しますが、その影響を左右しかねない最大の注目材料は9月5日(金)に発表される米雇用統計です。
8月1日に発表された7月分の統計では大幅な下方修正が市場を揺らし、トランプ政権によるBLS(米国労働統計局) 長官解任に繋がるなど、政治的にも波紋を呼びました。市場は9月にFRBが利下げを開始するとの期待を織り込みつつありますが、雇用統計次第でその見方は変動し得ます。さらにADP雇用レポートや新規失業保険申請件数なども総合的に判断されるでしょう。
歴史的に9月は相場が弱くなりやすい月であり、投資家心理も不安定になりやすく、短期的には下落リスクが高い月です。しかし、過去のパターンを踏まえると、その調整が次の上昇の呼び水となる可能性も高く、10月から11月にかけては追い風が吹きやすい傾向があります。AI関連の物色は続きつつも銘柄選別が進む中で、小型株や景気敏感株にも注目が広がれば、秋相場は想定以上に広がりを持った展開になるかもしれません。
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岡元 兵八郎
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー
上智大学卒業後、ソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入社。東京・ニューヨーク勤務を含め26年間、外国株式関連業務に従事。上級管理職として機関投資家向けにグローバル株式投資の拡大を推進し、世界54カ国の市場への投資を支援。SMBC日興証券では米国株の分析・資料作成を担当し、個人投資家向けにも情報を発信。北米滞在10年、訪問国80超、33カ国以上の証券取引所・企業訪問の経験を持つ。2019年より現職。著書に『日本人が知らない海外投資の儲け方』、『本当に資産を増やす米国株投資』など。
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