バリュー株か、グロース株か。知っておきたい科学的投資の視点

2025.11.20

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「科学的投資法」とは、市場の雰囲気や人の直感に頼るのではなく、理論や過去の検証結果といった科学的な根拠にもとづいて投資の判断を行う方法です。人はどうしても感情や思い込みの影響を受けやすいため、いつも冷静で一貫した判断を続けるのは簡単ではありません。科学的投資法は、そうした人間の弱点を補い、客観的な考え方とデータを使って判断することで、偶然ではなく、長期的に安定した成果を目指す考え方です。少し難しく思えるかもしれませんが、投資をするうえでとても大切な視点です。ただ、あまり構えすぎず、気軽な気持ちで読み進めていただければと思います。今回から、この科学的投資法のしくみや考え方を、できるだけ分かりやすくご紹介していきます。

バリュー株とグロース株という考え方

投資を考えるとき、まず整理しておきたいのは「バリュー株に投資するのか、グロース株に投資するのか」という視点です。一般にバリュー株とは、株価が安く放置されている銘柄を指します。たとえば、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)といった指標が、市場平均、同じ業界の平均や、過去と比べて低く、割安だと判断されるものです。

一方、グロース株とは、将来の高い成長が期待される銘柄のことです。世界的にはGoogle、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの頭文字をとった「GAFAM(ガーファム)」が代表的で、日本でもAI・インターネット関連企業、半導体、電子部品、バイオ・医療テクノロジー企業などがこれにあたります。

ただし科学的投資法では、単に「株価が安いからバリュー」「成長するからグロース」と判断するのではなく、もう一歩踏み込んだ考え方をします。重要なのは、市場参加者の平均的な予想や評価、つまり「コンセンサス」と実際の株価との関係を見ることです。

科学的投資法におけるバリュー株とグロース株の例

企業の将来の利益や成長について、市場のコンセンサスがきちんと株価に反映されておらず、本来の価値より安くなっているとすれば、それはバリュー株と考えます。例えば、1株あたり利益(EPS)が100円の企業に対し、市場では成長を見込んで理論株価を1500円と考えているのに、株価が1300円なら、200円分の割安ということになります。実際には、ここまで正確に理論株価を計算しなくても「市場の期待(コンセンサス)よりも安い=バリュー株」と実感として考えられれば十分です。

グロース株の場合はどうでしょうか。株価が市場コンセンサスどおりの水準で、一見すると株価は高値であっても、自分の判断で「将来の成長はコンセンサスよりも高くなる」と考えられるのであれば、それはグロース株への投資ということになります。

極端な例にもなりますが、ある企業に対し市場(コンセンサス)は「今後もある程度の高い成長を続ける」と期待し、その結果、株価は1万円という高い水準についているとします。しかし、自分の見立てでは数年後の利益が10倍、或いは20倍を超えると見込むなら、本来の株価はもっと高くても良いはずです。こうした銘柄への投資がグロース株投資です。

このように科学的投資法では、(PBRや株価そのものの)指標が安いからバリュー、成長するからグロースという単純な分け方ではありません。

コンセンサスの利益や成長などの情報が、株価に適切に反映されているのか、適切に反映されるなら、もっと株価は高くなっても良い銘柄への投資がバリュー株投資。一方、利益や成長に対して「コンセンサスと自分の見立ての差」から自分の見立てではコンセンサスより高く株価が評価されるだろうと考えられる銘柄への投資が、グロース株投資です。

グロース株投資の注意は、株価が既に高くなるまで市場の期待(コンセンサス)が織り込まれている場合です。自分の見立てもコンセンサスと同程度の将来の利益や成長であれば、その企業に投資しても、すでに株価に情報が反映されているため、将来のリターンは期待できません。自分の見立てがコンセンサスより高く、その自分の見立てが適切で、将来の高い成長を見抜けたときこそ、科学的投資法のグロース投資が成功します。

投資後に必要なバリューとグロースの観点からのフォロー

科学的投資法では、投資したあともその銘柄について、グロースとバリューの観点からフォローすることが必要です。たとえば、バリュー株に投資した銘柄の株価が期待どおりに上がったなら、市場がその価値を認めたということです。

逆に、思ったように上がらなかった場合は、市場がまだその銘柄の評価を見直していないケースの可能性もあります。この場合には、保有を持続します。しかし失敗のケースもあります。コンセンサス自体が変わり、理論価格が下がることがあるからです。そのときは売却の判断が求められます。

少し専門的な話になりますが、その企業が市場の評価より安く放置されている(バリュー株の特徴)だけでなく、自分の見立てでは、市場の予想を上回る将来の成長も期待できる(グロース株の特徴)という、両方の特徴を併せ持つ場合もあります。

こうした銘柄は、バリューでありグロースであるため、「GARP(Growth At a Reasonable Price:成長を妥当な価格で買う)」と呼ばれます。ただ、科学的投資法の最初の段階では、このような複雑な考え方は必要ありません。バリュー株かグロース株かの2つの分類で大きくとらえる方法で十分です。

バリュー株かグロース株かを整理し、投資した後もその理由が正しかったのかを検証し続けることは、「なぜその銘柄を選んだのか」「今も投資を続けるべきか」「撤退すべきか」を判断するうえでとても大切です。こうした考え方の積み重ねこそが、安定して成果を目指す科学的投資法の土台になります。

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吉野 貴晶

マネックス証券 チーフ・マーケット・アナリスト 兼 マネックス・ユニバーシティ 投資工学研究学長

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で、記録的となる16年連続で1位を獲得した後、国内系運用会社で投資工学開発センター長を経て、現職。社会人として歩みを始めて以来、一貫してクオンツ計量分析、データサイエンス、AI(人工知能)を活用した証券市場の分析に携わる。大学共同利用機関法人 統計数理研究所のリスク解析戦略研究センターで客員教授を兼任。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科(青山ビジネススクール)にて客員教授、学術フロンティア・センター特別研究員。経営戦略、企業評価とポートフォリオマネジメントの授業の教鞭も取る。博士(システムズ・マネジメント)。日本ファイナンス学会理事、日本金融・証券計量・工学学会(JAFEE)理事。2025年9月より現職。

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