出産にかかるお金はどのくらい?出産育児一時金など申請するともらえるお金
執筆者:ファイナンシャルプランナー(CFP)|高山 一恵
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- 節約術
【この記事を読んでわかること】
- 正常分娩の平均額は約48.2万円。その他にも健診費用や子育て関連費用などなにかとかかる
- 出産育児一時金は50万円受取れるので、出産費用はおおむねカバーできる。また妊婦健診費用助成によって健診の費用もまかなえる
- 出産手当金、医療費控除、高額療養費制度、さらには住んでいる自治体の補助など、受取れるものがないかをチェックして、もれなく活用しよう
お子さんの誕生となればうれしい話ですが、気になるのは出産にかかるお金ではないでしょうか。しかし、出産に際してはさまざまな「受取れるお金」があるのも事実です。うまく活用すればそれほど心配することなく乗り切ることができるでしょう。今回は、出産にかかる費用の平均と、出産一時金など、申請すると受取れるお金を紹介します。
出産にはいくらぐらいお金がかかる?
厚生労働省「出産費用の見える化等について」によると、2022年度の出産費用(正常分娩のみ)の平均は48万2,294円。施設や分娩の種類によって、次のように多少違いがあります。
<出産費用の平均額(2022年度)>
分娩全体 | 正常分娩のみ | |
---|---|---|
全施設 | 46万8,756円 | 48万2,294円 |
公的病院 | 42万0,482円 | 46万3,450円 |
私的病院 | 49万0,203円 | 50万6,264円 |
診療所(助産所を含む) | 48万2,374円 | 47万8,509円 |
厚生労働省「出産費用の見える化等について」より(株)Money&You作成
出産費用は年々右肩上がりで増え続け、50万円近くに達しています。
厚生労働省の資料によると都道府県でも差があり、最も高い東京都で56万2,390円、最も安い鳥取県で35万9,287円ですので、20万円ほどの違いがあります。
また、これらはあくまで出産費用ですので、出産前の健診や出産後に始まる子育てに関する費用がかかることも忘れてはいけません。
出産の際に活用できる6つの制度
出産費用がこれだけかかるというと、不安になってしまうかもしれません。しかし、国や自治体は、私たちの暮らしを支えるさまざまな給付金・助成金を用意しています。そのなかから出産の際に活用できる制度を6つご紹介します。
出産の際に活用できる制度1:妊婦健診費用助成
厚生労働省では、お腹にいる赤ちゃんの様子や妊婦さんの変化を定期的に確認するために、計14回の妊婦健診を勧めています。その健診費用を補助してくれるのが妊婦健診費用助成です。妊婦健診の費用は自治体や健診の内容によっても異なりますが、おおよそ1回5,000円~1万円程度ですので、総額で10万円前後かかる計算です。これを自治体が補助してくれます。
妊婦健診費用助成は多くの場合、お住まいの市区町村で妊娠したことを届けて母子手帳を交付される際に、助成券の形で交付されます。妊婦健診を受ける際に、医療機関に助成券を提出すれば、健診の費用がかからなかったり、安く済んだりします。
たとえば、東京都江戸川区の場合は、次の金額が助成されます。
<妊婦健診費用助成(東京都江戸川区・2024年4月1日受診分から)>
助成上限額 | |
---|---|
妊婦健診1回目上限額 | 10,980円 |
妊婦健診2回目以降上限額 (14回目まで) |
5,140円 |
超音波検査上限額(経腹法) | 5,300円 |
子宮頸がん検診上限額 | 3,400円 |
多胎妊婦における妊婦健診 15回目から19回目まで上限額 |
5,140円 |
(株)Money&You作成
14回目までの妊婦健診の費用に加えて、超音波検査や子宮頚がん検診の費用も助成してくれます。また、近年は多胎妊婦の方の妊婦健診についても助成してくれる自治体が出てきています。双子ちゃんといえばかわいい感じがしますが、母体へのリスクも大きいもの。そのリスクに対する負担を軽減できます。
妊婦健診の助成上限額を超える分は自己負担になりますし、助成の対象外となる診察もあります。とはいえ、総額で10万円近い支出が抑えられます。忘れずに利用しましょう。
なお、助成券はなくすと再発行されないので大切に保管してください。引っ越した場合には、引っ越し先の自治体で引っ越し前の自治体の助成券と交換してくれます。
出産の際に活用できる制度2:出産育児一時金
出産育児一時金は、出産するときに健康保険・国民健康保険から受取れるお金です。
出産育児一時金の金額は、2023年4月以降1児あたり50万円になっています。なお、産科医療補償制度に未加入の医療機関で出産した場合や、産科医療補償制度に加入していても妊娠22週未満で出産した場合は1児あたり48万8,000円です。
出産育児一時金の対象は、妊娠4カ月(85日)以上で出産した人。仮に早産・流産・死産・人工中絶などとなった場合にも受取れます。また、双子を妊娠した場合には2人分、100万円が受取れます。
出産の際に活用できる制度3:出産手当金
出産手当金は、出産のために会社を休んだ場合に健康保険から受取れるお金です。
会社で働く女性が出産する際には、産前6週間(42日)+産後8週間(56日)の98日間の「産休」が認められています。特に産後のうち6週間は、法律で必ず休まなければいけないと定められています。
ただ、この期間に会社を休むことはできても、会社が給料を支払う義務はありません。会社から給料が出ない場合や、給料が出ても出産手当金の金額より少ない場合に、出産手当金が受取れます。
出産手当金の金額は、大まかにいえば1日あたりの月給(月給÷30)の3分の2です。
厳密にいうと「支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した金額を30日で割り、その金額に3分の2を掛けた金額」です。なお、標準報酬月額とは、給与などから算出される、社会保険料を簡単に計算するための金額です。
仮に12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額が25万円だった場合、支給日額は25万円÷30日×2/3=5,556円(小数点第1位四捨五入)となります。産休を98日とった場合、5,556円×98日分=54万4,488円が受取れます。なお、出産予定日より出産が遅れた場合は産休の日数が増えるため、支給額が多くなります。逆に、出産が早まった場合は産休の日数が減るため支給額が少なくなります。
出産手当金は非課税所得なので所得税や住民税が掛からず、社会保険料についても全額免除されます。出産手当金=手取りなのもうれしいですね。
出産の際に活用できる制度4:医療費控除
医療費控除は、1年間に10万円を超える医療費を負担した場合、確定申告することで節税できる制度です。医療費控除は税金の計算のもとになる所得を差引く「所得控除」の一種。所得控除が大きいほど所得が減るため、所得税や住民税が節税できます。
医療費控除の控除額は、次の計算式で求めます。
- 所得200万円以上の場合
(1年間の医療費の合計額-保険金や公的給付の補てん金額)-10万円
- 所得200万円未満の場合
(1年間の医療費の合計額-保険金や公的給付の補てん金額)-所得額の5%
※上限200万円
1年間の医療費の合計から、保険金や公的給付などから受け取ったお金を引いた額が10万円超(所得200万円以上)・所得の5%超(所得200万円未満)の場合、医療費控除が受けられます。
出産に関する費用のうち、妊婦健診費・交通費(電車やバス。タクシーは電車やバスの利用が困難な場合のみ)・入院費・分娩費・1カ月健診費・母乳外来費などは医療費控除の対象にできます。
なお、これらの費用が10万円(または所得の5%)に満たなかった場合でも、「生計を一にしている親族」の医療費も合算して申告できます。合算して一定額を超えるのであれば、確定申告しましょう。
出産の際に活用できる制度5:高額療養費制度
高額療養費制度は、国民健康保険、健康保険の被保険者や被扶養者の1カ月あたりの医療費の自己負担額が一定額を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。正常分娩は「病気ではない」という扱いなので、高額療養費制度の対象外ですが、帝王切開を行った場合などは高額療養費制度の対象になります。
医療費の自己負担額の上限は、年齢や所得の水準によって異なります。以下の図は70歳未満のケースです。
<高額療養費の自己負担限度額(70歳未満)>
区分 | 自己負担限度額 | 多数該当 |
---|---|---|
年収約1,160万円~ 健保:標準報酬月額83万円以上 国保:所得901万円超 |
25万2,600円+(総医療費-84万2,000円)×1% | 14万100円 |
年収約770万円~約1,160万円 健保:標準報酬月額53万円~79万円 国保:所得600万~901万円 |
16万7,400円+(総医療費-55万8,000円)×1% | 9万3,000円 |
年収約370万円~約770万円 健保:標準報酬月額28万円~50万円 国保:所得210万~600万円 |
8万100円+(総医療費-26万7,000円)×1% | 4万4,400円 |
年収156万円~約370万円 健保:標準報酬月額26万円以下 国保:所得210万円以下 |
5万7,600円 | 4万4,400円 |
住民税非課税世帯 | 3万5,400円 | 2万4,600円 |
(株)Money&You作成
たとえば、年収約370万円〜約770万円の方が医療費の1カ月の医療費が100万円だった場合、自己負担額は8万100円+(100万円-26万7,000円)×1%=8万7,430円です。
出産の際に活用できる制度6:住んでいる自治体ごとに実施している支援
ここまでは全国共通で活用できる制度を紹介してきましたが、このほかにも自治体によってはさまざまな支援を行っています。
たとえば東京都千代田区「誕生準備手当」では、区内に住む方が妊娠した場合(妊娠20週以降)、一時金として4万5,000円が支給されます(流産・死産でも支給/多児妊娠・出産でも同額)。
また大阪府大阪市「出産・子育て応援給付金」では、妊娠届出をした妊婦1人につき5万円、生まれたお子さん1人につき5万円が支給されます。合わせて10万円ですから大きいですね。
上記の他に、会社から「出産祝い金」がもらえるケースもあります。金額は会社によってさまざまですが、出産時のお金の助けになることは間違いありません。
出産・育児によって、生活は大きく変わります。収入や支出も同様に、大きく変わります。収入が減ったら、支出が増えたらと不安になったら、一度自分がどのようなお金をいくら受取れるのか、確認してみてください。
- ※ 本ページは2024年11月時点での情報であり、その正確性、完全性、最新性等内容を保証するものではありません。また、今後予告なしに変更されることがあります。