金利の仕組みとは?金利上昇時におすすめの資産運用
執筆者:ファイナンシャルプランナー(CFP) | 高山 一恵
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【この記事を読んでわかること】
- 日本銀行(日銀)は政策金利を上下させて景気のコントロールを行なっている。2024年3月、長らく続いてきたマイナス金利が解除され、金利が上昇してきた
- 政策金利が上昇すると「銀行預金の金利が上昇する」「個人向け国債の金利が上昇する」「生命保険の保険料が下がる」「住宅ローン金利が上がる」「為替レートが円高になる」といった影響がある
- 金利上昇時におすすめの資産運用には、定期預金や変動10年国債がある
日本銀行(日銀)は2024年3月、大規模な金融緩和策の柱として2016年に導入した「マイナス金利政策」を解除し、2007年以来17年ぶりに利上げを決定、さらに7月末には金利のさらなる引上げを発表しました。これを受けて、日本は「金利のある社会」に少しずつ向かっています。
これまで「金利のない社会」で暮らしてきた私たちには、金利が上がる影響がイメージしにくいかもしれません。しかし、銀行預金の金利がアップしてお金が増えるといったら、気になるのではないでしょうか。
今回は、金利の仕組みの基本、金利上昇が生活に与える影響、金利上昇時におすすめの資産運用を紹介します。
そもそも金利ってなに?どうやって決まるの?
金利とは、金融機関などからお金を借りる時に支払う利息を計算するための割合(%)です。
たとえば、銀行にお金を預けると利息がつきます。100万円を金利0.1%で預け入れると、税金を考慮しなければ、1,000円の利息がつきます。
反対に100万円を借りて金利が10%の場合、返済する時には、元金の100万円に加えて、10%にあたる利息10万円を支払う必要があります。
では、お金を預けたり、借りたりする時の金利はどうやって決まるのでしょうか。
預金や住宅ローンの金利の元となる金利を「政策金利」といいます。政策金利は各国の中央銀行、日本の場合は日銀(日本銀行)が決めています。
政策金利は、国の景気をコントロールするために活用されています。
景気が良い時には、政策金利を引上げます。金利が上がると、金融機関は、以前より高い金利で資金調達しなければなりません。そのため、金融機関は個人や企業にお金を貸すときの金利も引上げます。そうすると、個人や企業はお金を借りにくくなり、投資や消費などの経済活動が抑制されて、景気の過熱を抑えるのです。景気の過熱が抑えられると、消費が落ち着くため、物価も下がります。
反対に、景気が悪い時には、政策金利を引下げます。金利が下がると、金融機関は、以前より低い金利で資金を調達できるようになるので、個人や企業にお金を貸すときの金利も低くてすみます。個人や企業はお金を借りやすくなるため、たとえば個人の住宅購入や企業の設備投資などがしやすくなります。これにより、経済活動が活発化し、景気が上向きになります。また、これに伴い、物価が上昇していきます。
日銀は、経済活動を活性化する目的で、銀行などの金融機関が日銀にお金を預ける際の金利にマイナス金利をつけるマイナス金利政策をとってきました。金利がマイナスだと、金融機関は日銀にお金を預ける際に利息を支払わなければならなくなります。これでは金融機関は損ですから、金融機関は、集まったお金を、企業や個人に積極的に貸付けるようになりました。こうして、日銀は、世の中に出回るお金を増やし、経済を活性化させ、景気回復を図ってきたのです。
これまで日銀は、2%の物価上昇を目指してきました。それは、毎年2%程度の物価上昇が続けば、景気も順調で、企業業績も良く、働く人のお給料も上がり、安定した経済状況が見込めると考えていたためです。
2022年4月以降は、消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)は、2%を継続的に超えています。また、2024年の春闘では大企業を中心に満額回答が相次ぎ、物価上昇に加えて賃金を引上げる動きも出てきています。
そこで、日銀は、「賃金と物価の好循環」が見通せると判断し、マイナス金利の解除に踏み切ったのです。
2024年3月のマイナス金利解除によって、日本の政策金利はマイナス0.1%から0.1%に引上げられました。さらに7月末には、政策金利を0.1%から0.25%に引上げることを発表し、大きなニュースになりました。今後、金利はさらに上昇するかもしれません。
金利上昇が生活にどのように影響するの?
マイナス金利が解除され、金利が上昇することで、私たちの生活にはどんな影響があるのでしょうか。主なものを見てみましょう。
普通預金・定預預金の金利が上がる
マイナス金利が解除されるまで、多くの銀行の普通預金金利は年0.001%(以下金利・金額はすべて税引前)でした。それが、マイナス金利解除後は年0.02%に引上げられました。さらに7月末の金利上昇を受けて、年0.1%などと引上げる動きがあります。
年0.001%と年0.1%では100倍違います。たとえば100万円を1年間預けた場合にもらえる利息も10円と1,000円という具合に100倍変わります。今後も金利が上昇すれば、もらえる利息も増えていくでしょう。
個人向け国債の金利が上がる
債券は、国、地方自治体、企業などがお金を借りるために発行する借用証書のようなものです。そのうち個人向け国債は、国が発行する債券(国債)を個人でも買いやすくしたものです。個人向け国債には、金利がずっと一定の「固定3年」「固定5年」と、金利が半年ごとに見直される「変動10年」の3つのタイプがあります。それぞれ保有中に利息が得られるうえ、3年・5年・10年後には元本が戻ってきます。
昨今の金利上昇を受けて、個人向け国債の金利も上昇。2024年8月発行分の「固定3年」の金利は年0.38%、「固定5年」の金利は年0.61%、「変動10年」の金利は年0.72%となっています。
生命保険の保険料が下がる
金利上昇により、安くなる可能性があるのが生命保険の保険料です。
生命保険会社は、生命保険の契約者から集めた生命保険料を積み立てておき、将来保険金を支払うために備えています。このお金を「責任準備金」と言います。責任準備金は、国が定めた標準利率に基づき保険会社ごとに「予定利率」を決めて積み立てています。
生命保険の予定利率は、保険会社が契約者に約束する運用利回りで、保険料は見込んだ収益分を割り引いて計算されます。ですから、予定利率が引上げられると、保険料が安くなる可能性があります。
住宅ローン金利が上がる
金利が上がると、住宅ローンの金利も上がります。
住宅ローンには借入れ中ずっと金利が変わらない固定金利と、金利が見直されて変動する変動金利があります。このうち変動金利の住宅ローンの金利は、金融機関が企業向けに貸し出す際の基準金利「短期プライムレート」を参考に決められます。そして、政策金利は短期プライムレートに影響を及ぼします。ですから、マイナス金利が解除され、政策金利が上昇すると変動金利の住宅ローンの金利が上がる可能性があります。
なお、固定金利の住宅ローンは長期金利(10年もの国債の利回り)を基準にしています。こちらも、2022年12月に日銀が長期金利の上限を引上げたことを受け、上昇傾向にあります。
為替レートが円高になる
マイナス金利政策が解除され、日本も金利のある社会になりつつあるとはいっても、海外の金利は日本より軒並み高金利です。たとえば米国の政策金利は5.25%〜5.5%(2024年7月時点)。日本の金利が上昇したといっても、まだまだ低く、海外と差があるのが現状です。
利息の少ない日本と、利息の多い米国であれば、米国にお金を預けたほうがいいと考えて、米ドルを買う(=日本円を売る)動きが大きくなると、ドル高(円安)になります。
しかし、日本の金利が上昇したり、米国の金利が下落したりして、二国間の金利の差が縮小すれば、為替レートは円高になる可能性があります。実際、7月末の利上げが発表されたときには、為替レートは円高に動きました。
なお、2024年8月2日、日経平均株価は実に2216円もの下落を見せました。その理由は複雑で一概には言い切れませんが、米国の景気減速が懸念されたことや、為替レートがこのところ円高ドル安に動いていたことがその要因とされています。
一般に、金利の上昇は企業が設備投資するときに必要なコストの上昇につながるので、株価が下がる要因になることもおさえておきましょう。
金利上昇時におすすめの資産運用は?
このように金利が上昇しているときの資産運用としておすすめなのが、定期預金や変動10年国債です。
定期預金
定期預金は、はじめに預ける期間を決めてお金を金融機関に預けるタイプの預金です。預け入れる期間は1年、2年、3年、5年、10年などとさまざまで、商品や金融機関によって異なります。期間中は原則として中途解約はできませんが、金利は普通預金より高めに設定されています。
金利が上昇している局面では、定期預金は3年〜5年と長い期間よりも、1年など短い期間のものを選ぶのがベターです。程よく高い金利が得られますし、更新するタイミングで金利が上昇していれば金利が上がる可能性があります。
変動10年国債
上で紹介した個人向け国債のうち、おすすめは変動10年国債です。変動10年国債の金利は半年ごとに見直されるため、今後も金利が上昇すると変動10年国債の金利も上昇していきます。反対に金利が下落すると変動10年国債の金利も下落しますが、最低でも年0.05%の金利は保証されます。そのうえ、1年経てば中途換金できますが、中途換金したとしても直近2回の利息が差し引かれるものの元本割れしません。
金利が上昇したとはいえ、普通預金の利息はまだまだそれほど高くありません。しかし定期預金には元本保証があるため、投資のように預けた残高が減ってしまうことはありません。1〜2年後に使うことが明確に決まっている資金であれば、預入期間の短い定期預金に預けておいて、使うときまで増やしていくのがおすすめです。また、5年以上先に使うお金であれば変動10年国債を活用して増やすのもひとつの方法です。
金利が上昇傾向であることを味方につけて、お金を安全に増やしていきましょう。
- ※ 本ページは2024年9月時点での情報であり、その正確性、完全性、最新性など内容を保証するものではありません。また、今後予告なしに変更されることがあります。