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【この記事を読んでわかること】
発行部数50万部を突破したベストセラーとして、書店で目にすることが多い「DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール」という本があります。著者はアメリカの実業家ビル・パーキンス氏です。日本だけでなく、世界11カ国以上で人気を博しています。
お金の「貯め方」ではなく「使い切り方」に焦点を当てた、これまでにない「お金の教科書」となっています。
今回は、「DIE WITH ZERO」から学ぶ、お金を"経験"に使う大切さを一緒に考えていきます。
「老後資金2,000万円問題」をきっかけに、将来のために、計画的にお金を貯めていくのが重要だという意識が日本人全体に広まりました。
将来に備えることは重要なのですが、お金を貯めることが目的化されてしまい、「今、お金を使うことはよくない」という風潮が醸成されているように感じます。
ですが、お金は使わないと意味がありません。
お金を使うことで叶えたい夢を達成し、豊かな経験をすることもできます。新たなスキルを習得する、海外旅行で自分の視野を広げる、といったこともお金を使うからこそできる選択です。
お金を残して亡くなるのは、もったいないです。1,000万円の資産があれば、1,000万円分の経験を得ることができます。亡くなったときに資産が残っているということは、そのお金を使って得られたはずの経験を得られなかったと考えることができるのです。
同書では「死ぬときに残したお金は、その分タダ働きしたのと同じ」と説明しています。
例えば、亡くなるときに資産が1,000万円残っていた場合、年収が400万円であれば、単純計算で2年半働かないと得られません。そうして得た1,000万円を使わずに亡くなってしまったら、2年半もタダ働きしたのと同じだ、という考え方です。
しかし、「仕事そのものが楽しくて充実した経験を得られるなら、お金を無理に使わず残しても問題ないのではないか」という意見があります。
同書ではこれに対して、「充実した経験ができる仕事で稼いだお金であっても、お金であることには変わりはない。好きな仕事で稼いだお金でも、ひいおじいさんから相続したお金であっても同じことだ。そのお金が自分のものになったのなら、価値ある経験に替えるべきだ」と説いています。
また、「人生は経験の合計であり、最終的に自分が誰だったのかはその合計で決まる」とも説いています。
実際、資産を亡くなる前までに使い切っている日本人は少ないようです。
内閣府の資料より、年齢階層別の資産の保有状況を見ると、20代以降は歳を重ねるほど増え、60〜64歳でピークを迎えます。しかしその後は資産をいくらか使ってはいるものの、80歳をすぎても1〜2割程度しか使えていません。資産の減りは徐々に緩やかになっていることもわかります。
<年齢階層別の資産の保有状況>
内閣府「令和6年度 年次経済財政報告」より
老後への備えに関して、同書では「今の生活の質を犠牲にしてまで、老後に備えすぎるのは、大きな間違いだ」と指摘しています。
お金と時間を使えるときは限られています。いつか「スキューバダイビングがしたい」と思っていても、80代になってからするのは難しいかもしれません。
ですから「楽しめるとき」「お金使う価値が高いとき」に、経験にお金を使うことが大切です。その結果、人生の幸福度を上げることができるのです。
若いうちの経験にお金と時間をかけた方がよい理由はもう1つあります。
それは、経験を楽しむ能力は加齢とともに減っていくからです。
上図は、経験を楽しむ能力が、年齢が上がるにつれて減少していく様子を表したものです。健康状態がよい方でも、年齢が上がれば身体的な能力が低下していきます。健康状態がよくない方なら、その低下がもっと早く起こります。70歳、80歳と高齢になってからでは、経験を楽しむ能力はだいぶ低下してしまいます。
どんな経験にも「それが一生できなくなってしまう」タイミングがあります。
お金も時間も、使えるときに使っておくという考え方を持ち、行動することが大切です。
お金を使う練習も大切です。
何にお金を使うと、満足感が得られるのか、当然人によって異なりますよね。
若いうちからお金を使う練習をしておかないと、老後に資産があったところで、何にお金を使えばよいのか、何にお金を使えば幸せを感じるのかわからない人生になってしまいます。
人生の各段階の有限さを意識しやすくなるツールとして「タイムバケット」があります。
タイムバケットは、自分の年齢や年代をバケツに見立て、各年代で自分がしたいことをまとめたものです。いわば年齢別の「死ぬまでにやりたいことリスト」です。
ご参考までに、私の著書で紹介している例を2つ挙げます。
タイムバケットでは、現在をスタート地点、予想される人生最期の日をゴールとします。
その間を5年、10年で区切り、その区切り(時間のバケツ=タイムバケット)に、やりたいこと、起こりうる大きなイベントを書いていきます。
時間と健康とお金を軸に考えると、自由な時間を得たからできること、健康であるからこそ楽しめること、お金があるから実現できることがそれぞれ違うことがわかります。
将来、時間ができたときにやろうということでも、若いうちにやることで価値が大きいということもあるでしょう。
残りの人生で何をしたいのか、時系列で考え、今しかできないことに集中して取組むことで、人生が豊かになっていきます。
私は人生最後の日にお金がたくさん残っている「お金持ち」よりも、思い出がたくさん残っている「思い出持ち」がよいと思っています。みなさんはいかがでしょうか。
頼藤 太希
マネーコンサルタント
(株)Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生保にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に創業し現職。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、フジテレビ「サン!シャイン」、BSテレ東「NIKKEI NEWS NEXT」などテレビ・ラジオ出演多数。主な著書に『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)など、著書累計180万部。YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。日本年金学会会員。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter)→@yorifujitaiki
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