
定年退職の時期が近づいてくると、退職金の金額が気になってきます。退職金は老後資金の大きな柱なので、受け取り方には注意が必要です。
まず、受け取り方は3通りです。
① 一時金のみ
② 年金のみ
③ 一時金と年金受け取りの併用
日本経済団体連合会、東京経営者協会の「退職金・年金に関する実態調査」(2021 年9月度)によると、退職金受け取りは、「退職一時金制度と退職年金制度の併用」の企業が66.1%と、最も多い受け取り方になっています。
ついで、「退職一時金制度のみ」は15.9%、「退職年金制度のみ」は10.3%、と続きます。
退職金の手取り金額は、額面から税金・社会保険料を差し引いた金額。
つまり、いくら額面金額が高額でも、税金や社会保険料が大きいと目減りしてしまうのです。
では、受け取り方でどのような違いがあるか、見ていきましょう。
退職金を一時金で受け取った場合は、退職所得の扱いです。
税金は、退職金から退職所得控除を差し引いた金額の半分にかかります。
退職所得控除の計算式
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
筆者作成
たとえば、22歳から60歳の定年まで勤めたとします(勤続年数は38年)。
この場合60歳の時点で退職所得控除額は、勤続年数20年超の退職所得控除額の計算式を使います。
退職所得控除額=800万円+(70万円×(38年-20年))=2060万円
退職一時金が2000万円だとしたら、退職所得控除を差し引くとマイナスですから、税金はかかりません。
さらに、退職一時金には社会保険料がかかりません。
一時金で受け取る方法は、税金や社会保険料で目減りする額を抑えることができることがわかりました。
しかし、一時金での受け取りは、額面金額では年金受け取りよりも少なくなることが一般的です。なぜなら、年金受け取りの場合は、企業側が年金の資金を運用して増やしてくれることが期待できるからです。
退職金を年金で受け取った場合は、雑所得の扱いです。
税金は、年金での受取額から公的年金等控除を差し引いた額に対してかかります。
公的年金等控除額
年齢 | 年金額 | 控除額 |
---|---|---|
65歳未満 | 130万円未満 | 60万円 |
65歳以上 | 330万円未満 | 110万円 |
国税庁より筆者作成
たとえば、60歳で定年退職してから受け取る退職金の年金が、年間60万円までなら非課税で税金はかかりません。
さらに、65歳以上になると年間110万円までが非課税です。
年金受け取りの金額が非課税になる金額よりも多い場合は、所得税がかかります。
また、国民健康保険料、介護保険料の対象にもなります。
退職金受け取り方法は、一時金と年金の併用としている企業が最多です。
それぞれの割合が選べる場合は、最適な組み合わせで受け取れるように考えておくといいですね。
節税しながらおトクに老後資金の準備ができるiDeCo。
iDeCoには3つの税制優遇があります。
ただし、受取り時の税制優遇を受けるには、工夫が必要です。
では、どのように受け取るといいのでしょうか。
一時金で受け取るiDeCoは、退職所得です。
さきほど計算したように、勤続年数が38年の人は、退職所得控除が2060万円ありますから、退職金とiDeCoの合計金額が2060万円までなら税金がかかりません。
しかし、合計金額が2060万円を超えると税金がかかります。
たとえば、退職金が2000万円、iDeCoの一時金が1000万円だとしたら合計で3000万円です。
3000万円-2060万円=940万円
退職金の場合、この金額の半額が退職所得ですから、470万円に対して所得税がかかります。
税率は所得金額によって変わります。470万円の場合は20%。下記の速算表で計算できます。
所得税の速算表
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超 330万円以下 | 10% | 9万7500円 |
330万円超 695万円以下 | 20% | 42万7500円 |
695万円超 900万円以下 | 23% | 63万7500円 |
900万円超 1800万円以下 | 33% | 153万6000円 |
1800万円超 4000万円以下 | 40% | 279万6000円 |
4000万円超 | 45% | 479万6000円 |
国税庁HPを元に筆者作成
所得税の速算表で計算すると、
470万円×20%-42万7500円=51万2500円
所得税は51万2500円です。
住民税は一律10%なので、470万円×10%=47万円となります。
退職金とiDeCo一時金合わせて3000万円から、98万2500円差し引いた残り約2900万円が手取りということになります。
では、60歳で退職金を一時金で受け取り、65歳でiDeCoを一時金で受け取った場合はどうなるでしょうか。
まず、60歳で受け取る退職金が2000万円、勤続年数が38年なら税金はかかりません。
その5年後の65歳で、iDeCoの一時金を受け取った場合、退職所得控除はありません。
ただし、退職所得控除が80万円に満たない場合には80万円にするルールがありますので、退職所得控除は80万円です。
iDeCoの一時金1000万円から退職所得控除80万円を差し引くと920万円。
1000万円-80万円=920万円
半分の460万円に税金がかかります。
さきほどと同様に計算すると、所得税は49万2500円です。
460万円×20%-42万7500円=49万2500円
退職金とiDeCoを一時金で一緒に受け取るより、税金はやや安く抑えられたことがわかります。
年金受け取りの場合は雑所得の扱いで、公的年金等控除が利用できます。ただし、厚生年金や国民年金の老齢年金を受け取っていると、合計して計算されます。
所得税は所得が多いと税率が高くなる仕組みなので、iDeCo以外の年金やその他の収入の金額によっては税負担が重くなることも。
さらに、影響は所得税だけにとどまらず、住民税や健康保険料、介護保険料、医療費の上限額などにも関係するので注意が必要です。
このように退職金、iDeCoの受取りには注意が必要です。
それぞれの金額や受取り方、勤続年数、iDeCoの加入期間、その他の収入によって、税金負担が変わってきます。
受取る時に慌てないよう、あらかじめ最適な受取り方を確認しておきましょう。
お申込みに際しては、以下の留意点を必ずご確認ください。
タケイ 啓子
ファイナンシャルプランナー(AFP)
36歳で離婚し、シングルマザーに。大手生命保険会社に就職をしたが、その後、保険の総合代理店に転職。保険の電話相談業務に従事。43歳の時に乳がんを告知される。治療を経て、現在は治療とお金の相談パートナーとして、相談、執筆業務を中心に活動中。FP Cafe登録パートナー。
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