マイナ保険証のメリット・デメリットや注意点は?付加給付とは

執筆者:ファイナンシャルプランナー(CFP)

高山 一恵

保険

2024年12月13日

【この記事を読んでわかること】

  • 既存の健康保険証は2025年12月1日をもって使えなくなる。人によっては、これよりも早く使えなくなる
  • マイナ保険証を利用すると、医療の質がよくなる期待ができるうえ、高額療養費・医療費控除などの手続きも簡単になる。
  • マイナ保険証には「保険者」が記載されていないため、付加給付が受けられることを見逃す可能性がある

日本は「国民皆保険」。すべての人が健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療制度といった公的な健康保険に加入しているため、手元に健康保険証がない人はいないでしょう。病院や薬局で健康保険証を提示すれば、原則3割負担で診察が受けられたり、薬がもらえたりします。

しかし、既存の健康保険証は2024年12月2日をもって新規発行が終了。今後は「マイナ保険証」を基本とする仕組みに移行します。では、既存の健康保険証はもう使えなくなるのでしょうか。マイナ保険証のメリット・デメリットとともに、解説します。

既存の健康保険証は使えなくなる?

結論からいうと、既存の健康保険証が新規発行されなくなっても、すぐに使えなくなるわけではありません。既存の健康保険証は、12月2日から最長1年間は使用できます。ただし、2025年12月1日以前に有効期限が設定されている場合は、その有効期限までしか使用できません。
たとえば、2024年8月1日に発行された国民健康保険や後期高齢者医療制度の保険証の有効期限は「2025年7月31日まで」に設定されています(自治体によって異なる場合もあります)。この場合は、2025年8月1日以降、既存の健康保険証は使えなくなります。

既存の健康保険証が使えなくなる代わりに、今後はマイナ保険証を基本とする仕組みに移行します。
マイナ保険証は、マイナンバーカードと健康保険証を一体化したもの。マイナンバーカード取得後、健康保険証利用の申込みをすることでマイナンバーカードを健康保険証として利用するマイナ保険証が手に入ります。
2022年に実施された「マイナポイント」をもらう条件の1つが「マイナンバーカードを健康保険証として利用する登録を行うこと」だったので、すでにマイナ保険証をお持ちの方もいるでしょう。

病院や薬局を利用するときには、マイナ保険証を医療機関の窓口にあるカードリーダーに置き、顔認証または暗証番号の入力で本人確認をします。これにより、一定の窓口負担で医療が受けられます。マイナ保険証を持っているならば、マイナ保険証を利用しましょう。

マイナ保険証を持っている人には、保険証の番号や資格取得年月日などの情報が記載された「資格情報のお知らせ」が届きます。いずれもマイナンバーカードには記載されていない情報なので、大切に保管しておきましょう。

一方、マイナ保険証を持っていない人は、健康保険証の代わりになる「資格確認書」を窓口で提示することで、一定の窓口負担で医療が受けられます。資格確認書は、マイナ保険証を持っていない人を対象に今後送付される予定です。

資格情報のお知らせも資格確認書も、申請手続きをしなくても届きますので、届いたらなくさないように注意しましょう。

マイナ保険証のメリット

マイナ保険証は、必ず登録しなければならないものではありません。2024年10月からは、マイナ保険証の登録解除もできるようになっています。ただ、マイナ保険証を利用すると次のようなメリットがあります。

マイナ保険証のメリット1:データに基づくよりよい医療が受けられる

病院や薬局の受付時にマイナ保険証を利用し、情報提供に同意すると、医師や薬剤師にこれまで処方された薬や特定健診の結果などをスムーズに共有できます。一般の方には難しい情報でも簡単に伝えることができますし、初めて利用する病院・薬局でもよりよい医療を受けられるようになることが期待できます。

マイナ保険証のメリット2:高額療養費制度・限度額適用認定の手続きが不要に

高額療養費制度は、1カ月(月の初めから終わりまで)の医療費の自己負担額が上限額を超えた場合に、その超えた分が払戻される制度です。ただ、高額な医療費をいったん立て替えて支払い、後から払戻しを受ける必要がありました。「限度額適用認定」を利用すれば立て替えなくて済むのですが、少し面倒ですよね。
マイナ保険証を利用すれば、はじめから高額療養費・限度額適用認定を受けたのと同じ状態になるため、自動的に限度額を超える支払いが免除されます。

マイナ保険証のメリット3:医療費が少し安くなる

マイナ保険証を利用すると、既存の保険証や資格確認書を利用するよりも初診料が20円、再診療が10円安くなります。それほど大きな金額ではないと思われるかもしれませんが、大きな怪我や病気をしたなどで医療機関に何度もかかった場合や、高齢で持病の治療をしている場合など、医療機関を利用するほど差がついていきます。マイナ保険証を利用すれば、そうした差を気にする必要がなくなります。

マイナ保険証のメリット4:医療費の確定申告が簡単

1年間に支払った医療費(家族の分を含めた合計)が一定額以上となった場合は、確定申告で「医療費控除」という手続きをすることで、所得税の還付が受けられます。

マイナ保険証を利用して支払った医療費の情報は、政府が運営するオンラインサービス「マイナポータル」から確認できます。さらに、マイナポータルと国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を連携させることで、確定申告書に1年間の医療費を自動で入力できます。
マイナポータルの情報を利用して医療費控除をする場合、医療機関で受け取った領収書などを保管しておく必要もないので便利です。

マイナ保険証のメリット5:就職・転職・引越しをしても保険証として使える

就職・転職・引越しなどのとき、保険証の切り替えや更新が必要になる場合があります。保険証を切り替えている間に医療機関を利用したい場合には、一時的に費用を全額立て替えて、後から保険証を提示して返還してもらったり、「療養費」の請求をして払戻してもらったりする手間がかかります。

しかし、マイナ保険証なら就職・転職・引越しなどがあってもそのままマイナ保険証を使い続けることができます。また、国民健康保険や後期高齢者医療制度を利用している場合も、保険証を更新する手間がなくなります。

マイナ保険証のデメリット・注意点

一方、マイナ保険証にもデメリットや注意点があります。

マイナ保険証のデメリット・注意点1:マイナンバーカードの有効期限が切れると使えない

マイナンバーカードの有効期限は通常10年、未成年者は5年です。また、マイナンバーカードに付いている電子証明書の有効期限は5年です。マイナ保険証は電子証明書を利用するため、たとえマイナンバーカードの有効期限がまだ切れていなくても、電子証明書の有効期限が切れてしまえば利用できなくなります。有効期限の切れる3カ月ほど前に、電子証明書の更新のお知らせが届きますので、早めに手続きをしましょう。

マイナ保険証のデメリット・注意点2:付加給付に気づかない?

マイナンバーカードにはさまざまな情報が記載されていますが、反対に「保険者」が記載されていません。保険者とは、健康保険を運用している主体(団体)のこと。大きくわけて全国健康保険協会(協会けんぽ)と健康保険組合があります。このうち、健康保険組合は従業員数が一定以上の大企業が会社の福利厚生の一環で従業員に用意しているものです。

健康保険組合では、独自に「付加給付」を行なっている場合があります。付加給付は、健康保険組合が行っている、より手厚い健康保険の給付です。

たとえば、1カ月(厳密には、毎月1日から末日までの1カ月)に100万円の医療費がかかったとします。高額療養費制度を利用すれば、自己負担額は8万7,430円にできます(70歳未満で年収が約370万円〜約770万円の人の場合)。しかし、ある付加給付を行う大企業の場合、医療費が100万円でも自己負担が2万円で済むようになっているのです。つまり、単純計算で6万7,000円ほどお得になります。

しかし、マイナ保険証を利用していて保険者がそうした付加給付を用意していることに気づかなければ、付加給付が利用できなくなってしまうかもしれません。

既存の健康保険証が廃止され、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行することを紹介してきました。マイナ保険証によっておトク・便利になることもある一方、懸念すべきでデメリットや注意点もあります。

ただ、今後はマイナ保険証に限らず、さまざまなサービスがマイナンバーカードに集約されていくことは間違いありません。すでに、スマホにマイナンバーカードが搭載できるようになったり、運転免許証が「マイナ免許証」としてマイナンバーカードと一体化したりすることが予定されています。
今後の流れやメリット・デメリットをしっかり把握した上で、マイナ保険証を使うのか、あるいは資格確認書を利用するのかを決めるのがよいでしょう。

  • 本ページは2024年12月時点での情報であり、その正確性、完全性、最新性等内容を保証するものではありません。また、今後予告なしに変更されることがあります。

高山 一恵

ファイナンシャルプランナー(CFP)

(株)Money&You取締役
一般社団法人不動産投資コンサルティング協会理事。慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、(株)エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演活動、多くのメディアで執筆活動、相談業務を行ない、女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。明るく親しみやすい性格を活かした解説や講演には定評がある。月400万PV超の女性向けWebメディア『Mocha(モカ)』やチャンネル登録者1万人超のYouTube「Money&YouTV」を運営。
著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『11歳から親子で考えるお金の教科書』(日経BP)、『マンガと図解 定年前後のお金の教科書』(宝島社)など著書累計170万部超。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。

高山 一恵のプロフィールを見る