【iDeCo改正】掛金の上限&加入年齢が70歳未満まで引上げ?
執筆者:ファイナンシャルプランナー(CFP)|高山 一恵
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【この記事を読んでわかること】
- iDeCoでは「掛金を拠出できる期間を70歳未満までに引上げる」「受給開始を75歳以降でも可能にする」「掛金上限額を引上げる」という改正が行われる可能性がある
- iDeCoのこれらの改正は2024年中に結論が出る予定
- iDeCoの掛金を増やすことができれば、その分多く所得税や住民税を節税できる
iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は国民年金・厚生年金といった公的年金の上乗せで自分年金を作れる制度です。自分で出した掛金を運用し、その成果を原則60歳以降に受取ります。掛金を出すとき、運用しているとき、受取るときの3つのタイミングで税金が節約できるため、おトクに老後資金を用意することができます。
このiDeCoの制度が改正されるかもしれません。今回は、iDeCoの改正されるかもしれないポイントと、iDeCoの活用方法を紹介します。
iDeCoの制度が変わる?
iDeCoの制度がスタートしたのは2001年のこと。日本では少子高齢化が進んでおり、公的年金だけで老後の生活を豊かにするのは難しいのが現状です。そこで、自助努力で老後の年金を増やせるようにiDeCoの制度が設けられました。
国はiDeCoを活用し、老後のお金を自分で増やしてもらいたいと考えています。そのため、iDeCoは他の制度よりも税金の面で優遇されています。そのうえ、iDeCoは制度のスタート後も加入できる人や加入できる期間が増えるなど、さまざまな改正が行われてきました。そして今回、さらなる制度変更が検討されているのです。
iDeCoの改正はまだ決定したものではありませんが、具体的には次のような改正案が出てきています。
iDeCoの改正案①掛金を拠出できる期間を65歳未満から70歳未満に引上げる
現状、iDeCoに加入して掛金を出せるのは、最長で65歳未満までの方です。具体的には、「会社員・公務員として厚生年金に加入して働く人」または「国民年金の任意加入をしている人」は、65歳未満までiDeCoに加入し、掛金を出すことができます。この年齢を「70歳未満」に引上げるという案が検討されています。
iDeCoと同じように年金の上乗せを作る企業型確定拠出年金(企業型DC)や確定給付企業年金(DB)といった制度は、すでに70歳まで加入できます。しかしiDeCoは65歳未満までなので、足並みを揃えて70歳未満まで加入できるようにするのは不自然ではありません。65歳以降も働く人が増えているなか、働きながらiDeCoで5年間長く掛金を積み立てることができれば、将来もらえる年金も増える可能性があります。
しかし、自営業やフリーランス、専業主婦(夫)で、60歳時点ですでに国民年金保険料を40年支払っている場合は、60歳になると国民年金の被保険者ではなくなり、任意加入もできませんので、60歳以降は掛金を出すことができません。
iDeCoの改正案②iDeCoの資産の受給開始を75歳以降でも可能にする
iDeCoで運用した資産は、60歳〜75歳の間で受取りを開始するルールです。新しい掛金を出さなくなっても、資産は受取るまで非課税で運用されます。
しかし、加入期間が70歳未満までに引上げられると、70歳を迎えてからわずか5年で受取りを開始しなければならなくなります。これでは運用期間が短いということで、iDeCoの資産の受給開始を75歳以降でもできるようにする案が出ています。受給開始が延長されれば、その分運用期間を長くとることができます。
iDeCoの改正案③iDeCoの掛金上限額を引上げる
iDeCoで毎月・毎年投資できる金額の上限(掛金上限額)は、働き方や企業年金の有無によって次のように異なります。
【国民年金第1号被保険者】
自営業者・フリーランス・学生…月額6万8,000円・年額81万6,000円
【国民年金第2号被保険者】
- 会社員
企業年金がない場合…月額2万3,000円・年額27万6,000円
企業型確定拠出年金のみある場合…月額2万円・年額24万円
確定給付型企業年金がある場合…月額1万2,000円・年額14万4,000円※
- 公務員…月額1万2,000円・年額14万4,000円※
【国民年金第3号被保険者】
専業主婦(主夫)…月額2万3,000円・年額27万6,000円
2024年12月からは※をつけた確定給付型企業年金などの他制度に加入している方(公務員を含む)の掛金上限が月額2万円、年24万円にアップします。それに加えて今後さらなる掛金の引上げが検討されているのです。
毎月の掛金額が増えればその分たくさんiDeCoの掛金を出しやすくなり、税制優遇も受けやすくなります。
政府が2024年6月に発表した「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太の方針)には、
“iDeCo(個人型確定拠出年金)の拠出限度額および受給開始年齢の上限引上げについて、2024年中に結論を得る”
と明記されています。したがって、2024年中に何らかの方針が示されるでしょう。
変更されたらどうなる?どう活用すべき?
仮にiDeCoの制度が改正されて企業年金のない会社員が毎月の掛金を2倍(4万6,000円)出せるようになった場合、毎年の所得税と住民税の金額がどう変わるのか、iDeCoでいくら節税できるのか、シミュレーションしてみましょう。
【前提条件】
- 企業年金がない年収500万円の会社員
- 所得控除は基礎控除と社会保険料控除のみ(社会保険料控除は年収の15%)
- 復興特別所得税は考慮せず
- 30歳から65歳未満までの35年間掛金を出す
<iDeCo加入で毎年の所得税・住民税額はどうなる?>
iDeCo加入なし | iDeCo掛金 月2万3,000円 (年27万6,000円) |
iDeCo掛金 月4万6,000円 (年55万2,000円) |
|
---|---|---|---|
所得税 | 13万5,500円 ※税率10% |
10万7,900円 (−2万7,600円) ※税率10% |
8万8,900円 (−4万6,600円) ※税率5% |
住民税 | 38万7,000円 | 35万9,400円 (−2万7,600円) |
33万1,800円 (−5万5,200円) |
合計 | 52万2,500円 | 46万7,300円 (−5万5,200円) |
46万7,300円 (−10万1,800円) |
※( )内は「加入なし」との差額
(株)Money&You作成
所得税や住民税を計算するときには、年間の給与から「給与所得控除」「所得控除」を差引いて課税所得を求めます。そして、課税所得に所定の税率を掛けて税額を算出します。所得税の税率は課税所得に応じて5%〜45%の7段階、住民税の税率は一律10%です。
iDeCoの掛金は、全額が「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除の対象になります。したがって、iDeCoの掛金が月2万3,000円の場合、年27万6,000円課税所得を減らすことができます。この例では、所得税率・住民税率とも10%ですので、所得税・住民税とも2万7,600円、合計で5万5,200円差引くことができます。税率がまったく変わらなかった場合、35年間の節税金額は5万5,200円×35年=193万2,000円です。
仮に、iDeCoの掛金が月4万6,000円になった場合、課税所得は倍の年55万2,000円差引くことができます。
しかし、単純に差引ける税額が倍になるわけではありません。今回のシミュレーションでは、課税所得が減ることによって所得税率が10%から5%に下がります(住民税率は変わらず10%)。この影響で、差引ける金額は所得税が4万6,600円に。住民税の5万5,200円と合わせて10万1,800円となります。税率がまったく変わらなかった場合、35年間の節税金額は10万1,800円×35年=356万3,000円です。
以上より、掛金が2万3,000円から4万6,000円になることで毎年節税できる金額は増えます。
- 所得税:1万9,000円
- 住民税:2万7,600円
- 合計:4万6,600円
35年間だと163万1,000円も節税額が増やせる計算です。
現役世代が減り、高齢者が増えるため、年金の将来の給付水準は今より下がっていくことも考えられます。それに伴い、国民自身が自分で備えることのできるiDeCoの環境整備はさらに進んでいくはずです。iDeCoを利用する人とそうでない人の差はますます大きくなるでしょう。今後の改正も踏まえつつ、老後資金作りにiDeCoを活用していきましょう。
- ※ 本ページは2024年8月時点での情報であり、その正確性、完全性、最新性等内容を保証するものではありません。また、今後予告なしに変更されることがあります。
お申込みに際しては、以下の留意点を必ずご確認ください。